[懐かし名車旧車] いすゞ ベレット1600GT(1964-):エレガントにして俊足。国産車で初めて“GT”を名乗った2ドアクーペ
戦後は、トラック生産で復興に貢献。その後、乗用車市場へ進出するが、多難なスタートとなった
戦後は民間向けのトラック生産で復興に貢献。1949年に「いすゞ自動車」に改名するが、国に守られてきた名門の血筋は、以後の同社の歩みに色濃く影響を残す。志と技術は高いが、移り気な末端顧客相手の商売は巧みとはいえなかった。 乗用車市場への進出に当たっては、1953年に英国のルーツ社と提携。ヒルマンのノックダウン生産で技術を学び、それを活かしたオリジナル車、ベレルを1961年に発表する。広く愛されるクルマにするために、社内に初めてデザイン部門を立ち上げ、凝った造形を実現させたのはよかった。ところが、生産技術が追いつかず品質不良が多発。生産の安定に1年も要している。 バスやトラックでは定評を得ていた得意のディーゼル車も振動騒音が大きく、当時の最大顧客であるタクシー業界からクレームがついた。ベレットはその経験を糧に、より小型のファミリーカーとして開発され、先進的なメカや走りが高く評価される。SS1/4マイル21.6秒の加速は当時の1.5L車では群を抜いていた。 ベレルの轍を踏まないために、ベレットのデザインは生産性もよく考えて進められた。その甲斐あって、完成したデザインはスポーティでありながら無理なく造れ、市場でも好評を得る。 ボディサイドのキャラクターラインを低い位置に走らせて、下半身の安定感を表現。一方、十分なウインドウ面積を取りつつ、ピラーを傾斜させてスピード感を出すなど、スポーティなディテールも随所に取り入れられていた。1963年6月に発表され、11月に発売された4ドアセダンでは、ベンチシート&セパレートシート/コラムシフト&フロアシフトが選べるなど、当時としては画期的なバリエーションも用意された。
国産車として初めてGTを名乗る2ドアクーペ「ベレット1600GT」が登場
さらに1964年4月6日、国産車としては初めてGTを名乗る2ドアクーペ、ベレット1600GTを発表する。プリンス自動車が第2回日本GPの必勝マシンとして、スカイラインのボディに6気筒を押し込んだGTの市販を発表する、その3日前のことだった。 フロントにダブルウィッシュボーン、リヤにスイングアクスルの4輪独立サスを備え、いち早くラック&ピニオンのステアリングも採用したベレットは、セダンでもシャープな操縦性を誇った。それより車高の低いクーペボディに、88PSの1.6Lを積んだGTは、当時の国産車では随一のハンドリングを実現。「和製アルファロメオ」とも呼ばれている。 GTはさらに1964年9月に、国産車初のディスクブレーキを装着。1966年にはファーストバックも加えるなど、毎年のように進化していく。その究極となったのが、1969年登場のGTRだ。117クーペ用に開発された自社製のDOHC1.6Lエンジンは、120PSを発揮。最高速は190km/hに達した。その後もベレットはGTRが1971年にGTタイプRに改称するなど、絶えず話題を発した。だが、1966年のサニー/カローラの登場で火がついた日本のモータリゼーションは、トラックと同列の悠長ないすゞの商品計画を許さなかった。サニーとカローラが1970年に2世代目になった後も、1973年までおよそ10年にわたって造り続けられたベレットを置き去りにして、時代は駆け抜けていった。 【ベレット2ドア1600GTR(1970年式)】●全長×全幅×全高:4005×1495×1325mm ●ホイールベース:2350mm ●トレッド(前/後):1260/1240mm ●車両重量:970kg ●乗車定員:4名 ●エンジン(G161W型):水冷直列4気筒DOHC1584cc ●気化器:SUキャブレター×2 ●最高出力:120PS/6400rpm ●最大トルク:14.5kg-m/5000rpm ●最高速度:190km/h ●最小回転半径:5.0m ●トランスミッション:前進4段オールシンクロ後進1段 ●サスペンション(前/後):ウィッシュボーン式独立/ダイアゴナルリンク式独立 ●タイヤ:165HR13 ◎新車当時価格(東海道統一価格):116万円