もし10年前にコロナ禍が起きていたら--「Zoomになれなかった」スカイプ
そうすると、面白いもので使い始めたユーザーがどんどん周囲に宣伝してくれるんです。なんだかうさんくさくて面倒そうだと思っていたソフトウェアが、実際に使ってみると簡単で音声品質も高い。そうすると、周りに自慢したくなるわけです。「スカイプはいいから使ってみなよ」と周りに「布教」する。勧められた人は半信半疑ながらも試してみると、面倒な設定ぬきで使えてしまい信者になる。この繰り返しで雪だるま式にユーザーが増えていったのです。 スカイプは利用者数を一気に拡大していった。ユーザー数は2007年末時点で2億1700万人。それが3年後の2010年末には6億6300万人と3倍にまで伸びている。岩田さんによると、2011年にマイクロソフトに買収された後、マイクロソフト・オフィスに統合されたため、さらにユーザー数を伸ばしたという。
なぜZoomだったのか
だが、コロナ禍で選択されたのはスカイプではなかった。Zoomの利用回数は2019年末には1日1000万人だったが、2020年4月には3億人にまで急拡大している。全世界的に一気に利用者を拡大したが、日本でも同様の傾向が見られ、MM総研による「SaaS・コラボレーションツール利用動向調査」では、Zoomが35%とスカイプの倍近いシェアで、ウェブ会議システムの利用率1位の座についた。 インターネット接続があれば無料で通話でき、しかも高い音質と導入のしやすさを兼ね備えている。つまり、コロナ禍でビデオ会議に求められている機能はほぼスカイプも備えていたが、スカイプは日本社会には定着しなかった。そして、いざ必要となった時には新たなサービスであるZoomがスタンダードとして選ばれた。その理由はどこにあるのか? 長年、IT分野の取材を続ける西田宗千佳さんにも聞いた。 ――なぜ使い慣れたツールではなく、Zoomがここまで伸びたのでしょうか? 新しいというのは重要なポイントです。新たにリモートワーク、オンライン教育をはじめようという時に、新しいツールで解決しようと考えるのは日本に限らず、よくある話です。もちろん工夫すれば、スカイプでもLINEでもリモートワークはできたでしょうし、リテラシーが高い人はそうしたでしょう。ですが、大多数の人にとっては新たな生活スタイルをはじめるために新しいツールを使うほうが自然なんですね。新しいツールを探した時、多くのメディアで取り上げられているZoomを使ってみようか、そうした発想で爆発的に普及しました。 ――複数の選択肢があるなかで、Zoomが抜きんでた理由はどこにあったのでしょうか? Zoomのポイントは、知らない人とも簡単にビデオ会議ができる点にあります。同じ会社の同僚となら、スカイプなど他のサービスでも簡単です。ただ、社外の人とのやりとりにはまずアカウントを交換する、あるいはサービスに登録してもらうところからはじめなければなりませんでした。Zoomは相手に会議のアドレスを送ればすぐに参加してもらうことができます。商談や会見だと同じ相手と一度しかビデオ会議をしないという状況はよくあります。そうした際にいちいちアカウントを交換するのは手間ですが、Zoomはこの部分を簡略化したことが革命的でした。