もし10年前にコロナ禍が起きていたら--「Zoomになれなかった」スカイプ
コロナ禍で一気に導入が進んだテレワーク。それとともにテレワーク・アプリとして世を席巻したのがZoomだ。リンク一つで立ち上げられ、PCでもスマホでも途切れることなく対話できる使い勝手のよさで支持を集める。だが、この分野はZoomがパイオニアというわけではない。 ちょうど10年前、この分野を席巻していたのは全く別のサービス、スカイプだった。2010年12月時点でユーザー数は6億6300万人に達し、音声・動画通話の累計時間は年2070億分という天文学的な数字を記録。米調査会社テレジオグラフィーのリポートによると、2012年の国際電話トラフィックの3分の1強がスカイプによるものだったという。 世界で一世を風靡したスカイプはなぜ失速したのか? Zoomと明暗をわけたポイントはどこだったのか。関係者を取材した。(取材・文:高口康太/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)
一斉を風靡したスカイプ
「スカイプ」は、2005年から2010年代初頭にかけてネットユーザーの熱烈な支持を受けた音声・動画チャットツール。筆者もヘビーユーザーだった。1997年と2005年の2回、中国に留学しているが、その体験は1回目と2回目で劇的に変化した。大きかったのはインターネットとスカイプの存在だ。 1997年時点の中国でインターネットはほとんど普及しておらず、大学のコンピューター室でウェブサイトやメールを見るのがせいぜい。日本語に飢えた時は他の留学生が日本から持ってきた本や雑誌を読んで気をまぎらわせた。ホームシックに襲われた時は、なけなしの生活費から国際電話カードを購入して日本に電話したが、一番高額だった100元(当時のレートで1500円相当)のカードですら、ものの10分もたたずに切れてしまう。あまりの短さに電話をかける前よりもせつなくなったことは忘れられない。 それが2005年から3年間の留学では世界はまったく違っていた。ブロードバンドが普及し、いつでもインターネットが使える。そしてスカイプ。無料で音声通話ができるうえ、顔が見たければビデオチャットもできる。夜中にビールを飲みながら、日本の友人とだらだらおしゃべりするといったオンライン飲み会までできるので、寂しく思うことはほとんどなかった。留学中に翻訳のアルバイトをはじめたが、日本や香港のクライアントとも国際電話料金を気にすることなくスカイプで会議ができたので、特に困らなかった。 15年前にフル・リモートワークを体験済みで、今回のコロナ禍にもさほど動揺はなかったが、一つ気になったことがある。それがZoomの存在だ。今やビデオ会議の代名詞的存在となったが、15年前のスカイプでもほぼ同じことができたではないか。コロナ禍において、なぜスカイプでなくZoomがヒットしたのか。 2011年までスカイプジャパン社長を務め、飛躍的な成長を体験した岩田真一さんに話を聞いた。