地方からベストセラー本を連発するライツ社 「世の中を揺り動かす本だけを作る」徹底的なこだわり
「編集でも営業でも、社員同士がつながるLINEで聞けば秒で返事が返ってくるので、仕事は本当にやりやすいです」と笑顔を見せる。 営業の髙野は自社の本を「爆弾を仕掛けるようなイメージ」で売っているという。 「書店に並びだした途端に爆発して、世の中を揺り動かす。そういう本だけを作って売りたいんですよね」 設立当初は取次との契約に奔走した。近年創業したベンチャー出版社の中には、本の取次を通さずに自社で直接書店と流通を行う会社もある。そのほうが資金の回収が早くコストが抑えられるからだ。だが、各書店と個別のやりとりが必要になるため、売れ始めた本をスピーディーに10万部以上に売り伸ばすことは難しい。 「ライツ社は最初からベストセラーを出すことを念頭に置いて創業したので、取次との契約はマストでした」(髙野) ■飲み会で会社を超えた交流 出版界をもっと元気に 取次を通して自社の本を全国の書店に置いてもらい、さらに売り上げを伸ばすために本の広報活動もやれることはすべてやる。「ライツ社の本なら」と、重点的に売ってくれる書店も増えた。また、髙野の営業の真骨頂は「飲み会」にある。書店経営者や店長、出版社の取締役など、本に関わる人たちに声をかけ、頻繁に飲み会を開く。出版社や書店に勤める人々の会社を超えた交流を促したいという思いに加えて、「自社の本を売るだけでなく、出版界全体がもっと元気に盛り上がってほしい」と心から願っているからだ。 「僕は人生の節目節目で悩んだときに本を読み、本に助けられてここまで生きてきました。本は他の商品と違い、人生を良い方向に変える力があります。誰かの救いになるかもしれない本を届けるこの仕事は、天職です」(髙野) あらゆる情報がスマホから無料で瞬時に手に入る時代に、なぜ人は紙の本を読むのか。大塚は「本って『個人の思い』と『社会』をつなげる、めっちゃシンプルで、ある意味便利で簡単な方法だと思うんです」と語る。情報が勝手に流れてくるWEBのニュースやSNSとは違い、書店に「置かれている」本は、自分が「買う」という能動的な行為で初めて触れることができる。 「だからこそ読み手に生まれる衝撃や変化ってすごいものだと思うんです」(大塚) 2人が本を愛し、仕事とするのは、きっと本こそが最も人の心の奥深くまで届くメディアだからなのだろう。書く力を信じてまっすぐに、ライツ社の本はこれからも世を照らしていく。 (文中敬称略)(文・大越裕) ※AERA 2024年11月25日号
大越裕