米軍を渡り歩いた日本男児・サイトウ曹長の冒険譚「若い頃に『沈黙の艦隊』を読んで、いつか海に出たいと思った」
問題はむしろ教官よりも、同期だったという。 「映画でよく、せっけんを巻いた靴下を振り回して気に入らないやつをボコボコにするシーンがありますが、せっけんだと体に痣(あざ)が残っちゃうので、実際には砂が使われるんです。痣が残ると、翌日、教官にぶん殴られますからね」 目をつけられるのはどんな人なのか。 「自分のことが好きなヤツ、よくしゃべるヤツ、あとは協調性のないヤツがやられます。基本、班行動なので、協調性のないヤツがいる班はそいつのせいでよく連帯責任で罰を食らうんですよ。 例えば、地図判読訓練では、時間内に山の中や砂漠に隠されたハンコを探して捺印(なついん)しなければならないのですが、そいつのせいでとんでもない所に行って時間内に帰ってこられなかったりしたら、もうボコボコです。 教官もそういうことが起きてると知りながら目をつぶる。一定のラインを越えさえしなければね」 当然のようにサイトウ青年も標的にされた。理由は、年齢だ。 「すでに陸軍では三曹、海兵隊では伍長になっていたので、高卒で入ってくる新兵に比べて、年を食っているのはばれていました。 それで最初の頃にケンカを売られてね。『うるせえよ』って言ったら、そいつが殴りかかってきて。『負けちゃいけねえ』と思ってやり返してね。もうステゴロの殴り合いを、どっちかが負けるまでやるんですよ。 一度負けると、いいカモにされちゃう可能性もあるんで、もうボコボコにするしかない。映画とかでケンカした後に友達になるシーンがあるでしょ。そんなの映画だけですよ。ムカつくヤツと仲良くはならない」 ■リアルで密度の濃いメディックでの訓練 それでも、気の合う仲間はいた。 「新兵教育隊とは違って、メディックのコースは週末に自由があったんです。普段から人の命を預かっている責任感もあるし、信用されてるんですよね。『こいつらは自由時間を与えても問題を起こさないだろう』って。 だから週末には同期と飲み歩いてね。あれは楽しかった。飲み屋まで数㎞あったので、基地に歩いて帰ってくる頃にはもう酔いはさめてたけど」