全国でPFASの検出相次ぎ、政府が対応策 「水の安全確保」へ実態把握と対策急務
このため環境省は北海道大学や兵庫医科大学、国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)をそれぞれ中心とした各研究グループに委託して健康影響研究を6月に開始した。北大ではPFASの血中濃度などから発育や脂質代謝への影響を調査。兵庫医科大では動物実験や細胞実験で免疫機構への影響などを、また国立衛研では遺伝子解析の手法で毒性のメカニズムなどをそれぞれ調べるという。
ただこれらの研究期間は3年だ。健康への影響が顕在化して被害が広がる事態は絶対に避けなければならない。実際に被害が出てからでは手遅れになる。京大の原田准教授は「健康影響リスクが起きないよう対策すること、あるいはリスクを早く見つけて対処するといったリスク予防が大切だ」と強調している。
政府部内には広範な血液検査実施については依然慎重派が少なくないが、血液検査を求める要請は強まっている。環境省関係者によると、現在毎年3カ所で試験的に実施しているPFASを含む化学物質の血中濃度調査を全国規模に拡大する方向で検討しているという。
「予防原則」に立って対策を
「PFAS対策」といってもさまざまだ。健康被害リスク予防のための規制基準強化のほか、場合によっては水源の切り替えも検討対象になる。活性炭などに吸着させて除去する方法は既に何カ所かで実証実験が行われている。将来「除染」が必要と判断された場合は有力な方法になる。規制の強化の考え方に関しては動物実験データも重視した米国の例が参考になるだろう。
米政府はバイデン政権になってからPFASの規制強化を柱に水質環境対策に力を入れ、巨額の予算措置を講じてきた。PFAS汚染に対するこうした積極政策の背景には、健康影響・被害との因果関係が詳しく立証されるのを待つことなく、被害が拡大する前に適切な対策を講じる「予防原則」の考え方がある。1990年ごろから米国や欧州で取り入れてきた概念だ。
日本の政府にも予防原則の尊重が求められる。有害物質対策を主に担う環境省だけでなく、内閣府や厚生労働、農林水産、国土交通など関連する省庁が協力し、政府一体となって取り組む必要がある。そして「安心・安全な水」を確保するために地域住民の安全・安心を担う自治体と緊密に連携することが大切だ。
内城喜貴/科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員