クリエイター所有型 eスポーツ チームの台頭とその限界。業界が抱える課題と可能性とは
別のアプローチ
この種のクリエイター所有型eスポーツ組織の最初の例は、ユーチューバーのチャールズ・“モイストクリティカル”・ホワイト氏が2021年に立ち上げたモイスト・イースポーツ(Moist Esports)だった。それ以来、ほかの有名ゲーム系ユーチューバーもホワイト氏の足跡をたどるようになった。 昨年、モイスト・イースポーツの共同所有者になったラドウィッグ・アーグレン氏。同じく昨年、eスポーツチームのディスガイズド(Disguised)を結成したジェレミー・“ディスガイズド・トースト”・ワン氏などだ。 ある意味、クリエイター所有型、クリエイターブランド型のeスポーツ組織の台頭は、eスポーツ業界の変わりゆく本質の反映といえるかもしれない。パブリッシャーが所有・運営するeスポーツリーグという、かつて業界を支配していたビジネスモデルは、よりオープンなエコシステムに押されて勢いを弱めるようになっている。そしてそのおかげで、クリエイターはチームの運営費をまかないやすくなっている。 ワン氏はこう語る。「100シーブスに起きたのが、まさにこれだ。設立者でCEOのマシュー・“ネードショット”・ハーグ氏は、超カリスマコンテンツクリエイターだった。しかし、ライオット・ゲームズ(Riot Games)が要求してくる金額を支払って、リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(League Championship Series:LCS)の一員として大会に出続けるには、何もわかっていない投資家たちに会社のほとんどを売り払うしかない」。 「低迷期にあるいま、構想の実現性はむしろ上がっている。だから、私やモイスト、ラドウィッグの存在感が大きくなっている。我々は10億ドル規模の組織と競合しているわけではない」と話す。 しかし、そのほかの点では、クリエイター所有型のeスポーツ組織も、先人たちと同じ課題をいくつも抱え、その解決に取り組んでいる。彼らはいまも、多くをスポンサーシップによる資金に頼っている。確かに、ワン氏はグッズなどの新たな収益源へとディスガイズドを拡大することに成功した。しかし、その一方で、同氏率いるeスポーツチームはまだ、前月比でコンスタントに利益を出すところには到達していない。 「私の当面の最終目標は、自立できるようになること、つまりスタッフ15人分の人件費をまかなえるようになることだ。それがeスポーツの持続可能な未来への第一歩だからだ」と、ワン氏は語る。「投資家やエンジェル投資家からの出資を当てにしているようでは、eスポーツを永続させることなどできるわけがない。違うだろうか」。