クリエイター所有型 eスポーツ チームの台頭とその限界。業界が抱える課題と可能性とは
無形価値
モイスト・イースポーツにとっては、黒字化はそれほど重要なことではない。eスポーツチームの運営によって生み出される興奮とコンテンツ。そのためなら、このベンチャーで何十万ドルを失おうがかまわない。 そのように同チームのオーナー陣は公言している。ホワイト氏は、自身のeスポーツチームを直接の収益源に変えることを目指すのではなく、それを使って自身のブランドの無形価値を高めてきた。そして、モイストクリティカルの世界に魅了されるファンと潜在的なスポンサーを増やしてきた。 モイスト・イースポーツの共同設立者で、モイストクリティカルのマネージャーを長年務めるマット・フィリップス氏は、「モイスト・イースポーツといえばチャーリー(・ホワイト)。いまではそう認識されるようになっている。チャーリーを見たことがなかったモイスト・イースポーツのファンもおり、これによってまったく別のファンベースが開拓されている」と話す。 「その大きな効果で、全ブランドが協力して、お互いを支えるという、このエコシステムが生み出されている。帳簿をたどって、『あれのおかげで〇〇ドル稼げた』というのは、とても難しい」。 実のところ、eスポーツ業界の全ステークホルダーのなかで、クリエイター所有型のeスポーツチームの台頭をうまく利用する準備がいちばん整っているのは、ブランドとスポンサーかもしれない。 ゲームコミュニティーに精通するにしたがって、マーケターたちは業界内の個々のインフルエンサーが誇る優位性に着目するようになった。 また、ブランドのなかには、インフルエンサー市場に力を注ぐために、あからさまにeスポーツ手を引いているところもある。クリエイター所有型のeスポーツ組織のスポンサーになれば、ブランドは競技ゲームとのつながりを保ちつつ、このアプローチを強化できる。 ゲーミングハードウェアおよびライフスタイルブランドのレイザー(Razer)でグローバルeスポーツ部門のディレクターを務めるジェフ・チャウ氏は、「こうしたクリエイター主導型の組織との提携を弊社は切望している。彼らの方が独創的で革新的だからだ」と述べている。 「(名前は出さないが)これまでにもさまざまな組織と提携して、大型契約を結んできた。だが、彼らはビジネスのことしか考えていない。独創性を高めてコンテンツを盛り上げることなど、彼らの頭にはない。こうした活性化、こうした革新性こそ、我々が求めているものだ」。