謎に満ちた「カメの起源」(上) 中国での発見による最新研究
「浦島太郎」や「ウサギとカメ」といった子供が親しむおとぎ話に登場し、ペットとしても飼われることも多い亀は、私たちにとって非常に身近な生き物の一つです。トカゲやヘビ、ワニなどと同じ爬虫類の一種ですが、硬い甲羅を背負った胴長短足のそのユーモラスな体つきは、他の爬虫類の仲間とは大きく異なっています。 短い鼻、太古の奇妙なゾウ・ゴンフォテリウムは何食べた?ゾウ進化史新研究 なぜ亀はあのように他の生き物とは違う独特なフォルムになったのでしょうか。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ大自然史博物館研究員・地球科学学部スタッフ)が最新の研究成果を紹介しながら、謎に満ちた「カメの起源」について3回に分けて解説します。
他にいない不思議な脊椎動物
亀(カメ)目(Testudines)に属す種ほど謎に満ちた不思議な脊椎動物のグループは、他にいないのではないだろうか? 独特の甲羅と呼ばれる装甲を身にまとった物々しいいでたち。愛嬌さえ漂わせる胴長短足の体つきは、イソップ寓話の一つである「ウサギとカメのマッチレース」でなじみ深い。ウサギのように野原を疾駆したり、障害物をぴょんと飛び越えたりすることなどとても無理だ。古今東西、大空を羽ばたくことを実現させたという種は、ガメラという架空の存在を除いて今のところ知られていない(今後も発見されることなどないだろう)。 亀の体つきはカメにしか見られない。馬や牛、カツオと鮭、トカゲとワニなど分類学上かなり異なるグループに属していても、一見非常に似た大まかな体のデザインを備えたモノが、脊椎動物群においてよく見られる。しかしカメに似た他のグループを探せと言われても、私には思いつくものがない。 この事実はカメの体の構造をつかさどる設計図──いわゆる「ボディープラン」──が、かなりユニークなことを暗示している。遺伝子によって仕組まれた成長パターンも他の爬虫類の仲間と比べてかなり違うはずだ。そして太古の昔に初めて登場してから現在に至るまでの長い進化のプロセスに も、何か独特の道のりがあったに違いない(ウサギをやぶったカメの寓話は、脊椎動物の長大な進化史においてもいろいろな意味で含蓄があるのかもしれない)。