謎に満ちた「カメの起源」(上) 中国での発見による最新研究
脊椎動物進化史上の一大ミステリー
あえて断るまでもなく、カメ独特の体つきはやはり「甲羅」の存在につきるだろう。 亀の骨格を詳しく調べてみると背中側の甲羅は「背甲」と呼ばれ、平ら状になった肋骨と甲羅自体の骨が直接つながって構成されているのが分かる(注1)。我々ヒトの背中は皮膚と筋肉に覆われているので、亀のモノとは当然異なる。 そして亀においてもう一つ忘れてはならない重要な特徴に肩の骨(肩甲骨)の位置がある。亀において手と肩の骨は全て肋骨で囲まれた鎧のような甲羅の「内側」におさまっているのだ。肩こりを経験したことのある方(カタ)ならご存知だろう。人間を含むほとんどの陸生脊椎動物(=四足動物 Tetrapoda)の肩の骨は、肋骨の上(=外側だ)に位置している。 カメの構造の不可解さ・不思議さを再確認するために自分の肩甲骨をあらためてなでてみてはどうだろうか。(どうして亀の祖先はこのような奇天烈な構造を手に入れることができたのだろうか?) 亀の腹側には「腹甲」と呼ばれる背甲と対をなすまっ平らな板状の甲羅もある。これはおそらく胸骨または肋軟骨(gastralia)と呼ばれるものが延長化・平面化を起こして形成されたものだろう。この腹側の構造は進化上のプロセスとしてある程度想像力をもとにイメージしやすいのではないだろうか。ちなみに胸骨はヒトにおいて肋骨の先端の集合地点で胸の中心部の上下に少しくぼんだところにある板状の骨からなる。肋軟骨は肋骨の先についている長細い軟骨質の部分を指す(注2)。 さて最近の発生学と解剖学にもとづくデータは、カメの背甲がワニやアルマジロのような外皮が骨化したものとは根本的に異なるという意見で一致している。理化学研究所の倉谷滋博士率いる研究チームは、このテーマについて長い間興味深い研究を行っている(注1)。 「脊椎動物の歴史上の一大革命」とあえてここで言わせていただく。亀はどうしてこのような斬新な体の設計図「ボディープラン」を手に入れたのだろうか? 遺伝的な変異とともに体全体の構造を揺るがす革新が起こったに違いない。この出来事は進化史上いつ起きたのだろうか? その理由とは果たして何だったのだろうか?