台湾有事に備える~安全保障と経済の優先順位とは サンデー正論
小宮氏は「これができなくなると日本国内でものづくりができなくなる。安全保障の観点からすると非常にリスクを負っているが、これは1年や2年で直せる話ではない」とした上で、「今回のJFSSシミュレーションの想定は3年後の2027年だが間に合わない。残念ながら、この状態で突っ込むことを覚悟して、なるべく人の命を救う方向に頭を回すしかないのではないか」と語った。
中国には10万人、台湾には2万人の日本人が滞在する。
岡西康博元国土交通審議官は空路での退避について、「(日中間を運航する)航空会社は4分の1が日本で、残りは中国。日本の外務省が危険情報のレベルを上げたら、航空会社がどのぐらい便数を減らすのか。綿密なシミュレーションを航空会社と外務省、国土交通省も含めてやって段取りを作っておかないと、いざやれといわれても混乱するばかりだ」と指摘した。
退避勧告が出ても、なぜ台湾での有事なのに中国から退避しないといけないのか、あるいは中国に残ったほうが安全かもしれないと思う人がいるかもしれない。岡西氏は「政府は、有事が起こった場合はこのレベルでこういう段階にあり、こういう結果を伴うので逃げないといけませんよ、ということを国民と共有することが重要だとJFSSのシミュレーションで痛感した」と振り返った。
島田和久元防衛事務次官は「日本企業は日本の平和と安全を脅かす国に大事な社員を派遣して、企業の存立、さらにいえば日本経済の存立を委ねているということだ。安全保障の観点からいうとまずいということになるが、それをやめたら国の存立が成り立たない。そこは国家戦略として、中国への依存率を下げていくなどの真(しん)摯(し)な検討が必要ではないか」と述べた。
■海上輸送では迂回ルートの攻撃も
エネルギー安全保障をめぐっては現状認識の相違がさらに浮き彫りになる。
島田氏は、日本の貿易の99・6%は海上輸送に依存していることから、「石油備蓄があるからいいじゃないかという声があるが、1980年頃の電力の半分は石油で作られていたが、いまでは石油は8%で大半が液化天然ガス(LNG)と石炭によって作られている。天然ガスと石炭は備蓄がないから、やはり海上輸送ルートが途絶えることは非常に大きな影響がある」と語った。