台湾有事に備える~安全保障と経済の優先順位とは サンデー正論
小宮氏は別の見方を取る。「意外と日本のエネルギー安全保障は強(きょう)靱(じん)だ。なぜなら2度も石油危機があり、東日本大震災の教訓がある」。石油の備蓄は8カ月に相当する235日分あり、海上輸送ルートもバシー海峡ではなくロンボク海峡経由であれば「3日ぐらいの遅延と多少のコストで日本に入ってくることは可能」という。岡西氏は、世界のコンテナ港取扱量トップ10の大半は中国だとして、輸送ルートとなる海峡への攻撃は「中国の経済にも多大な影響を及ぼすので考えにくい。世界中のものが中国経由で動いているので、その海上が止まることは多分ないと思う」とする。
島田氏は、台湾海峡やバシー海峡を通れなくてもほかのルートがあるとの指摘に対し、「最悪の場合はドローンや対艦弾道ミサイルなどの攻撃または威嚇があった場合、迂回ルートであっても日本や台湾への輸送は止まる可能性があることを考えておかないといけない」と反論する。船舶保険の高騰や船員組合の反対なども想定される。日本が貿易で使用する船舶の9割以上は外国船籍で、乗組員の96・2%が外国人だ。
これに小宮氏は、ドローンなどによる攻撃にさらされたら、「日米連合艦隊で(船舶を)守ることができないといった場合、日本の経済自体が成り立たず、戦わずして負けるということになってしまう」と語る。岡西氏も「日本に仕向け地が決まった船舶に絞った攻撃は可能だ」と述べる。関係省庁が一体となって最悪の事態を想定した対応の検討が必要だ。
時間的な余裕がある間に
一方、NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストの松原実穂子氏は、昨年10月にウクライナの重要インフラ企業の一般エンジニアの一部が、英国で英陸軍の工兵隊から研修を受けた話を紹介した。爆発物の破壊力や、ドローンやミサイルが着弾した場合、金網またはコンクリートの壁でどの程度施設を守れるかといったことなどを学んだという。「時間的に余裕があるうちに官民が連携してシミュレーションを活用しつつ、率直に意見交換できる場が必要になってくると思う」と語った。