なぜオリックスの19歳左腕・宮城大弥はあわやノーノーの快投でG倒に成功したのか…変化球の球速を操る驚愕の投球術
捕手の伏見は思い切り体をインコースに寄せて構えていた。コントロール重視で投げずに自らの球威を信じて、多少制球が甘くなろうと全力投球で勝負してもよかったのではないかとの後悔である。 宮城ー伏見のバッテリーは、岡本の狙いを察知して、あえて、そこに餌をまきにいったのだろうが、正攻法で外角へのバックドアを選択してもよかったのかもしれない。岡本は見逃していただろう。しかし宮城はインサイドに突っ込んだ。その意気やよしである。 1点は失ったがリードは守った。7回1安打1四球13奪三振のピッチング内容は素晴らしかった。オリックスは7回に1点を追加すると8回をヒギンス、9回を平野で逃げ切って、宮城の今季本拠地初勝利をサポート。宮城は、初のお立ち台に立った。 「最高です。投げるたびに歓声を受けて、いい感じで雰囲気作ってくれたのでとてもありがたいです」 沖縄宜野湾出身の19歳ははにかむようにして笑った。 なぜ巨人は岡本の一発以外、宮城に手も足も出なかったのか。 昨年まで7年間、阪神でコーチを務め、オリックスでも2年間、コーチ経験のある評論家の高代延博氏は、「坂本、梶谷の2人のレギュラークラスが抜け得点能力が落ちていることは事実だが、今日の宮城であれば、巨人でなくとも攻略は難しかった」との見解。 「昨年、阪神のファームで宮城と何度か対戦したが、投球の術を知っている、とんでもない左腕が出てきたと思った。“あいつ変化球をすべて意識的に球速を変えてきている”。そういう話をベンチ内でしたことを覚えている。まず第一にコントロールが抜群にいい。外のボールゾーンからストライク。あるいは、低めのストライクゾーンからボールゾーン、インコースのストライクゾーンからボールゾーンと、真ん中へ寄るボールはひとつもない。巨人の左腕、中川が昨日連打を浴びたピッチングとは対照的だ」 さらに高代氏が注目したのは変化球の球速を操った点である。 「実は、スライダー、カーブ、チェンジアップの3種類の変化球のすべてを自由自在に球速を微妙に変えてきている。2段モーションから同じ腕の振りで、それらを投げ分けるからタイミングが合わずにボールが前に飛ばない。真っすぐの最速は148キロだったが、打者の体感は、150キロ以上だろう。背番号13を見ると、元中日のセーブ王、岩瀬のスライダーに重なる。岩瀬のそれは、途中までストレートに見えてえげつない角度で曲がる。曲がり方の質やキレは、もちろん違うが、宮城の球速を操るスライダーは、それに匹敵する魔球になっていくのではないか」 高代氏の指摘の通り、宮城は、この日、スライダーを123キロの低速スライダーから130キロの高速スライダーまで投げ分け、カーブも92キロから112キロまで、1球、1球、3段階、4段階のスピード差があった。ここにチェンジアップ、打者の3巡目からはフォークも交えた。 「色んな球で打者を打ち取れた」と、宮城も振り返ったが、4種類の変化球が、球速差で、7変化どころか、数十変化もするのだから、初対戦の巨人の打者が揃って困惑したのも無理はない。 宮城は、上げた右足を一度マウンドスレスレまで下げ、もう一度、振り子のように上げてからテイクバック動作に入る。独特の2段モーション。高代氏は、その足先に注目した。