衆院選「大山鳴動してネズミ一匹」見透かされた希望の曖昧さ
「有権者を甘くみてはいけない」という示唆
では、今回の選挙では何が問われたのだろうか。 各党の主張がぶつかる争点となったのは、主に消費税、憲法改正、原発である。消費税については、自民と公明が2019年10月の税率10%への引き上げを予定どおり実施した上で増収分の使途を変更するとしており、希望、立憲民主、維新、共産、社民はみな引き上げに反対する立場であった。 憲法改正については、自民、公明、希望、維新が推進の立場で、立憲民主、共産、社民は消極的であった。原発については、自民が再稼働を進める立場である一方、希望が「2030年までに原発ゼロ」の目標を設定するとしていることを始めとして、公明、維新、立憲民主、共産、社民は原発からの脱却を目指す立場であった。 しかし、これらの争点以上に有権者が重視したのは、政治への姿勢そのものだったと考えられる。希望の党は、上記のとおり代表の言動に一貫性が欠け、公約も曖昧で玉虫色であった。このように日和見的・機会主義的ともいえる態度が有権者に不評だったのではないだろうか。 それに対して立憲民主党は、枝野代表が「まっとうな政治」を掲げて筋の通った姿勢を示したのが好評だったと考えられる。 ここから得られる示唆は、有権者を甘くみてはいけないということではないだろうか。希望の党は一見「有権者受け」しそうな公約を並べたものの、それらの間に一貫性は乏しく、実現可能性も薄かった。有権者には「アメ」だけ与えていればよいと考えていたのであれば、大間違いである。ポピュリスト的(大衆迎合的)な姿勢を見抜く眼力を持つ有権者も相当程度存在することに、政治家たちは気付くべきであろう。
改憲論議は進むが9条改正まで踏み込むか
今後の政局の展望はどうだろうか。 野党再編についていえば、立憲民主党が第2党となったこともあり、民進党出身の無所属議員を中心にして、リベラル系の議員による立憲民主党への結集が進む可能性がある。基本的に保守的な立場を取る希望の党の登場は、いったん、日本の政党システムの重心を保守寄りに動かした。しかし、立憲民主が予想以上の躍進を遂げたことにより、今後、リベラルの存在感が高まることになるかもしれない。選挙後の会見で枝野代表は次期衆院選では単独で政権交代を目指す考えを示したが、果たして、立憲民主を軸としたリベラル勢力の結集による政権交代は近いうちに起こりうるだろうか。現時点で予断はできないので、今後の展開を注視する必要がある。 憲法改正はどうなるだろうか。自民勝利を受けて安倍政権が続く方向であるし、来年に安倍総裁が3選される見込みもかなり高い。希望や維新も憲法改正には積極的な立場なので、憲法改正の発議に必要な3分の2の賛成を確保するのは容易であろう。そのため、改正原案の作成など憲法改正の手続がある程度進む可能性は高いといえるだろう。 ただし、国民の間には憲法9条改正への抵抗感がまだ強い。連立パートナーの公明党も、9条改正には慎重な姿勢を崩していない。しかも、国民投票には大きなリスクが伴う。たとえば、英国のEU離脱時の国民投票は、英国民を二分してしまい、今でも英国政治は大きな混乱の中にある。こうしたことを考えると、実際に憲法改正の発議まで進むのには時間がかかるかもしれない。 憲法改正もさることながら、今の日本が早急に取り組まなくてはならないのは財政政策のあり方ではないだろうか。今回の選挙戦ではそれほど論戦は交わされなかったようだが、財政の将来は憂うべき問題である。 今後、安倍首相が約束したとおり、消費税引き上げによる増収分の使途変更が行われるだろう。つまり、借金返済に充てる財源の一部を、教育無償化や子育て支援へ配分することになる。このため、本来は2020年度に達成されるはずだった基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化は先送りされる。現在は日銀の量的・質的金融緩和(「異次元緩和」)が大量の国債買い入れにより財政赤字を支えている状況であるが、日銀が永遠に国債を買い続けることは不可能であり、その限界も見えてきている。財政再建への道筋や、アベノミクスの柱の一つである大量金融緩和の出口戦略を真剣に検討しなくてはならない。