事業承継の大問題…争族防止の切札「家族会議」を成功させる実践的ノウハウ【事業承継のプロが解説】
同族会社の事業承継を本格的に進めるうえで、「家族会議」は極めて重要なステップです。取り決めるべき議題のほか、具体的な進行の方法について事業承継のプロが解説します。※本連載は、事業承継士・中小企業診断士の中谷健太氏の著書『「子どもに会社をつがせたい」と思ったとき読む本』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
同族企業の事業承継のむずかしさ…血縁関係ゆえの軋轢も
もし現社長が家族の同意を得ずに、独断で後継者の決定や財産の分配などすべてを決定した場合は、家族の反発を招いて「争族」やトラブルに発展しかねません。それでは事業承継は「失敗」です。 当然、家族も争いごとを望んではいません。しかし、争いごとになりやすいのが事業承継です。同族企業では、血縁関係があるがゆえに生じる軋轢(あつれき)が大きな問題となる場合が多いのです。そういう意味では、家族は一番近い存在でありながら一番遠い存在でもあるように感じます。 「家族会議」は事業承継を本格的に進めるうえで、家族内のコミュニケーションや意思決定を円滑にするための重要なステップです。経営者の思いや家族それぞれの事業承継に関する意見、考え、不安などを共有することでお互いの理解を深め、事業承継とその後の会社の運営に向けて協力関係を築くことができます。 経営権や財産争いなどで大きなトラブルとならないうちに、主催者である経営者が元気でリーダーシップのあるときに、また一族が集まることが可能なうちに実施しましょう。 家族会議は「事業承継士」が一番必要とされる場面でもあります。事業承継とは節税対策や争族防止のみならず、会社の理念・儲かる仕組み・独自のノウハウ・企業文化を承継し、後継者によるさらなる成長を図る「全体最適」であり、ゆえにアドバイスをする者には幅広い知識とノウハウが要求されます。 家族会議は、事業承継においてもっとも大切な段階といっても過言ではありません。社長交代の混乱を最小限に抑え、争族防止の切り札になるだけでなく、家族の団結力を高め後継者を守(も)り立てていく機会になります。家族会議は事業承継の本格的な第一歩です。 家族会議では、例えば以下のような点について決定します。 (1)事業を承継する後継者の指名 (2)後継者への事業用資産の集中 (3)後継者以外への配慮 これらを社長が元気なうちに決定して事業承継時や相続時の混乱を防ぎ、一族の安寧をめざします。家族会議の最大の目的は、家族の安寧と結束力を高めることに尽きます。それぞれについて解説しましょう。 〈事業を承継する後継者の指名〉 後継者を指名する場として、家族会議は力を発揮します。後継者を指名する際、後継者に対する家族の想いや考え方を知ることは、今後の要らぬトラブルを未然に防ぐ効果があります。 後継者として指名を受けた人は、この先の重責を担う覚悟をし、この日から本格的な準備に入ることができます。後継者が家族に対して所信表明し、「自分が継ぐのだ」という覚悟が決まるとその後の姿勢も変わってきます。 〈後継者への事業用資産の集中〉 後継者を指名して会社を任せるということは、シンプルに言えば「後継者に株式を渡す」ということです。後継者に株式を集中させるのが経営上の望ましいことだとしても、後継者以外の家族にとっては理解できないことでもあります。 家族会議で後継者に株式を集中させる必要をしっかりと理解してもらえなければ、のちのちトラブルになりかねません。株が分散すれば経営に支障が出てくるのは言うまでもないことです。後継者に集中させなければならないのは株式だけではありません。事業資産もすべて後継者に相続させなければなりません。 〈後継者以外への配慮〉 株式や事業用資産(不動産など)は後継者に集中すべきですが、経営者の資産の大半が株式や事業用資産であることも多く、その場合、後継者以外の会社経営にタッチしない者に対しての相続財産をどうすべきかの問題が残ります。 他の子どもたちには家や現金、保険金を受け取る権利などを与えてバランスをとらなければなりません。家族会議では、当社株式の法定遺留分の除外を承認してもらうことも重要になります。
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