701年の大宝律令で国の医療として定められた「鍼」、茶々が我慢してすえたのを秀吉が褒めた「灸」。日本における<東洋医学>の歴史
◆ナマズやエイの電気刺激を利用した痛み改善も また、刺激の方法としては、刺した鍼に電気を流して刺激する鍼通電(はりつうでん。電気鍼)という方法もよく用いられています。 この鍼通電の起源には諸説ありますが、紀元前のヨーロッパで始まったとされる電気刺激療法が源流にあると考えられています。 実は、古代エジプトや古代ギリシャでは、電気ナマズやシビレエイの電気刺激を利用して痛みの改善などの治療が行われており、その後もヨーロッパでは電気を用いたさまざまな治療が続けられていました。 そして、19世紀前半、フランスの医師ベルリオーズが鍼に電気を流して腰痛の治療を行ったことをきっかけにして、東洋の鍼灸と西洋の電気治療を組み合わせた鍼通電(Electrical Acupuncture)が始まりました。 現在では世界中に広がり、治療だけでなく動物を用いた鍼灸の研究にも使われています。
◆庶民の医療としての灸 一方、灸は、植物のヨモギの葉の裏にある毛を集めて乾燥させた艾(もぐさ)を燃やし、その熱でツボを刺激するというものです。 中国の文献には、元々はチベットやモンゴルで行われていた治療法であるとも記されており、その歴史は鍼の登場よりも前だった可能性もあると言います。 皮膚の上に、じかに艾を置いて火をつける有痕灸と、皮膚との間に台座を介して痕が残らないようにした台座灸などの無痕灸があり、鍼と合わせて鍼灸治療に欠かせない治療法です。明治時代に西洋医学が主流となるまで、庶民の医療として広く行われてきました。 実は、最初に行われることを示す「皮切り」ということばの語源は、元々は灸の用語で、「最初にすえる灸」を意味することばでした。最初の灸は痛みがひどく感じられ、皮膚が切られるほど痛いので、「皮切り」と呼ばれていたのが、一般化したのです。 また、歴史的には名だたる人物たちも用いており、戦国時代、豊臣秀吉が側室の茶々に送った手紙では、茶々が嫌いだと言っていたお灸を我慢してすえたことを「まんそく申ハかりなく候(訳:大いに満足です)」と褒めていたことも知られています。 ※本稿は、『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(講談社)の一部を再編集したものです。
大野智,山本高穂
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