39mの超巨大望遠鏡をデジタルツインで完全管理 ~世界最大天文台が目指す未来~
世界最大の光学望遠鏡となる「ELT(Extremely Large Telescope)」の建設が、チリのアタカマ砂漠で進められている。直径39.3mの主鏡は798枚の精密なセグメントで構成され、各セグメントには約1000の個別コンポーネントが搭載される。nm(ナノメートル)単位の精度が要求されるこの巨大プロジェクトは、建物全体のデジタルツイン化を視野に建設を行っているという。 ELT(画像左)が完成すれば、米ハワイ島マウナケア山頂に建設が予定されている超大型光学赤外線望遠鏡「Thirty Meter Telescope」(画像左から2番目)よりも巨大になる。ちなみにThirty Meter Telescopeは米国、カナダ、中国、日本の5カ国の共同プロジェクトだ(写真提供:ESO) 米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された「Autodesk University 2024」(現地時間:2024年10月15~17日)の会場で、ELTプロジェクトのキーマンとなるEuropean Southern Observatory(欧州南天天文台:以下、ESO) メカニカルエンジニア統括のGerd Jakob(ゲルド・ヤーコブ)氏と、メカニカルエンジニアのRobert Ridings(ロバート・ライディングス)氏に話を聞いた。 ――最初に、ESOと超大型望遠鏡プロジェクト(ELTプロジェクト)の概要について教えてください。 ヤーコブ氏 ESOは欧州が主導する天文学研究機構です。南半球での天文観測を目的として設立された組織で、現在、最先端の天文観測施設の建設、運営を行っています。 ESOが手掛けるELTプロジェクトは、ESOが進める次世代の光学/近赤外線望遠鏡プロジェクトで、その目的は系外惑星の直接観測や、初期宇宙の銀河形成過程の解明、暗黒物質/暗黒エネルギーの研究など、現代天文学の重要課題に取り組むことです。現在、チリのアタカマ砂漠のセロ・アマゾネス山に建設中で、完成すれば世界最大の光学望遠鏡になります。 ――ELTの特徴について教えてください。 ヤーコブ氏 分かりやすく説明する際には「今ある世界最大の望遠鏡の10倍大きい」と伝えていますが、モノ作り専門メディア(MONOist)の読者には、その規模を詳細に説明する必要がありますね(笑)。 望遠鏡を収容する建物は高さ80m、補助地下建物は直径110mに達します。主鏡の直径は39.3mで、これは現存する最大の望遠鏡の約4倍の大きさです。ただし、天文観測機器は従来の望遠鏡の約10倍の規模になります。主鏡は798枚の六角形のガラス板で構成され、精密な制御システムにより一体として機能します。 ELTの最も特徴的な点は、その精度要件です。通常の建設工事がmm(ミリメートル)単位の精度で行われるのに対し、この望遠鏡(ELT)はnm単位の精度を必要とします。また、設置場所であるセロ・アマゾネス山は地震地帯ですので、特別な免震システムを採用しています。重量6000t(トン)の望遠鏡本体は、建物の下に設置された数百もの免震装置により支えられ、マグニチュード8クラスの地震にも耐えられる設計となっています。