39mの超巨大望遠鏡をデジタルツインで完全管理 ~世界最大天文台が目指す未来~
重視したのは機械設計と建設プロセスの効果的な統合
――ELTプロジェクトでは、Autodeskのソリューションを活用していると伺っています。具体的にどのような製品を導入していますか。 ヤーコブ氏 機械設計には「Autodesk Inventor Professional」を、設計/エンジニアリングデータの管理には「Autodesk Vault Professional」を使用しています。また、BIMには「Autodesk Revit」と「Autodesk Navisworks」を使用しています。なお、既存の望遠鏡のデジタルスキャンには「Autodesk ReCap」を使用し、施工管理には「Autodesk Construction Cloud」(以下、ACC)を導入しています。 ただし、これらの各構成要素の設計/製造は、さまざまな外部パートナーに業務を委託しています。私たちはこのプロジェクトのメインオーナー兼オペレーター、そして主任研究者として、全てのパートナーから異なるデータを受け取っています。 ――望遠鏡施設の設計/開発において、システム選定の際に重視したポイントは何でしょうか。 ヤーコブ氏 機械設計と建設プロセスの効果的な統合と、製品ライフサイクル全体を一気通貫で管理することです。具体的には機械設計、土木工学設計、製品管理にわたる包括的な機能を持ち、CADデータ管理を含めた統合的な管理が可能であることを重視しました。そして、単一のプラットフォームによって全体をカバーすることで、異なるソフトウェア間の互換性の問題を回避するようにしました。 望遠鏡施設は一見すると特殊な建造物に見えますが、本質的には精密機械を収容した建物であり、科学データを生産する工場のような性質を持っています。私たちが産業施設の設計で実績のあるAutodeskのプラットフォームを採用したのもこうした理由があるからです。
データ管理の課題――どうする、外部パートナーとのデータ連携体制
――「全てのパートナーから異なるデータを受け取っている」とのお話でしたが、異なる形式のデータを統合管理するにはどのような課題がありますか。 ライディングス氏 データ統合には技術面と組織面の両方で大きな課題に直面しています。技術面では、多様なデータフォーマットの統合が大きな課題となっています。例えば、ドームの設計データはRevit形式で提供される一方、機械設計データはInventor形式で作成されており、これらの異なるフォーマット間での正確なデータ変換が必要です。また、モデルが非常に大規模になることによる処理能力の限界にも直面しており、作業段階ごとに適切な詳細度でデータを管理していく必要があります。 組織面での課題は、主にチーム内での新技術の受容に関するものです。分かりやすく言うと、(データ統合によって)既存ツール以外の新たなツールでデータを扱う機会が増えてくると、20年以上の経験を持つベテラン技術者からは「従来のツールで十分だ」といった“抵抗”の声が上がってきます。さらに、新しいワークフローへの適応やデータ共有/承認フローの再構築など、作業プロセスの変更に伴う課題も存在します。 ――これらの課題にどのように対応していますか? ライディングス氏 私たちの基本方針は、プロジェクトの初期段階からデータの品質管理を徹底することです。特に、デジタルツインのような高度なシステムを構築する際、初期段階での不適切なデータは後から修正することが極めて困難になります。多くのデータを外部パートナーから受け取るわれわれのような場合、高品質で整合性のあるデータの確保が特に重要となります。 そのため、現在は段階的なアプローチで対応を進めています。まず、機械工学データについては、1つのパッケージにまとめてNavisworksに取り込み、境界ボリュームを使用してインタフェースチェックを行うことで、自己完結型のモデルとしての機能確認と動作保証を実現しています。 将来的には、これらのデータをACCに統合し、設計協力の過程で全体のパッケージを一元的に確認できる環境の構築を目指しています。また、基幹業務システム(ERP)と購買データとのリンク開発も並行して進めており、部品管理から調達までの一貫したデータ連携の実現に取り組んでいます。