「正しく理解していない専門家も多い」。今、免疫学の第一人者が「免疫の基本」の書を出版する理由
これと同じようなことが免疫でも起きていて、例えば、乳酸菌や発酵食品を食べると健康増進に役立つ、というようなことが言われていて、食品メーカーが出している広告を見ると、ある乳酸菌によって○○細胞の能力が上がりました、といったデータを出したりしているのですが、その多くは試験管内の実験データであって、それらを摂取したからといって、からだの免疫の働きが急に良くなったりするわけではなく、それを示す個体レベルでの確かなデータもありません。 確かに、ある免疫細胞を取り出してきて、特定のものを加えると、その細胞の能力がアップしたりするものは見つかっています。しかしそれによって、われわれの自然免疫や獲得免疫がすぐに上がるのかというと、そうではないのです。 その一方で、何か特定の食べ物や栄養素が不足すると免疫の力が落ちることもわかっています。その場合は、食べ物やサプリによって不足した分を補えば、免疫力が元のレベルまで戻ってくるということは十分にあり得ます。 つまり、免疫力を維持するには「バランスの良い食事」を心掛けることが大事で、偏食や過食をしないことです。サプリメントのような単品だけに頼るのは良くありません。また、睡眠や運動、ストレスの軽減なども自然免役に重要な役割を果たすことがわかっていますから、定期的に運動をすることも大切です。しっかりと睡眠を取り、できるだけ、余計なストレスを溜め込まないような生活を送るようにするという、あたりまえのことが免疫の働きをいい状態に保つ秘訣といえます。 従って、日常的にそれが実践できていれば、あまり余計なことは考えなくてもいいのではないかと思います。サプリや食品など、口から入れるもので簡単に免疫力アップ......というのを期待されている人がいたら、そこには「幻想」が含まれていると考えた方がいいかもしれません。 ※後編はこちらから ●宮坂昌之(みやさか・まさゆき) 大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授。1947年、長野県生まれ。京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所を経て、大阪大学医学部教授、同大学大学院医学系研究科教授を歴任。日本免疫学会元会長(2007年から08年)。著書に『ウイルスはそこにいる』(共著・講談社現代新書)などがある。 ■『あなたの健康は免疫でできている』インターナショナル新書 1045円(税込) わたしたちの健康を守っている「免疫」。しかし、その仕組みや働きについて、きちんと理解しているだろうか? 本書は、免疫学の第一人者が、誰もが知りたい「免疫のきほん」を、50のQ&A形式でわかりやすく解説。免疫が働きすぎるとどうなる? 病原体を記憶する免疫細胞とは? 免疫はがんに効く? などさまざまな問いに、最新の知見を交えて答える。健康に役に立つリテラシーと、免疫の新常識が身に付く入門書! インタビュー・構成/川喜田 研