「正しく理解していない専門家も多い」。今、免疫学の第一人者が「免疫の基本」の書を出版する理由
■簡単に免疫力はアップしない ──健康食品の宣伝でよく「免疫力アップ」といった言葉を目にします。「自然免疫は個人によって大きな差がある」というお話でしたが、自然免疫を鍛えたり、アップさせたりする方法はあるのでしょうか? そもそも「免疫力」は、測れるものなのでしょうか? 宮坂 この免疫力という言葉も、誤解を生みやすいところがあって、すでにお話したように免疫というのは多様で複雑な仕組みですから、その人の免疫の働き全体を単純に数値化して表すことは難しいのです。そのため「免疫力という言葉は科学的ではない」と指摘する専門家もいます。 しかし私は、「免疫力」という言葉にはれっきとした意味があると考えています。本書の中でも、免疫力を「その時点での個体の免疫的な能力」を広く指す言葉として使っています。例えば、「生命力」は現時点で数値化はできませんが、「生き延びる力」あるいは「生きるにあたって発揮できる能力」といった言葉で使われています。 その上で、結論から言うと、サプリメントも含めて何か特定の食品で、食べたり飲んだりすればそれだけで単純に免疫力がアップするようなものはないと私は考えています。 もちろん、われわれの健康を維持するために食べ物が重要であることは間違いありません。例えば、アメリカやヨーロッパで行なわれた長期的な研究では海産物を食べると心疾患のリスクが下がるというデータが出ています。じゃあ、海産物に多く含まれるのは何なのか、ということで注目されたのが「オメガ3脂肪酸」です。 だったら、オメガ3脂肪酸のサプリメントを飲めば心疾患のリスクが下がるのでは? と考えたくなりますよね。ところが、実際に臨床試験をやってみると心疾患のリスクを減らすという結果にはなりませんでした。つまり、食べ物そのものが健康に良い影響を与えることはあるけれど、有効だと思われる成分だけを抜き出して摂取しても、効果が出るとは限らないのです。