オリジナル楽器も開発~音楽教室も人気の島村楽器
考えた末に廣瀬は2004年に入社。 まずは楽器を弾く客の気持ちを知ろうと、ギターを習い始める。さらに店で扱うあらゆる楽器に精通しようと、猛勉強した。 ある日のこと。「1時間ぐらいかけてカタログを見ながら必死に接客して、3万円ぐらいのポータブルキーボードが初めて売れたんです。それはものすごくうれしかったです。」(廣瀬) 数日後、その客が店を訪れて廣瀬を呼び出した。「今日は初心者向けの楽譜を買いに来た。この前の接客がとても良かったから、また君に選んでもらおうと思って」と言うのだ。 「そうか、指名をいただけるとはこういうことなんだな、と。お客様に必死に役立とうと思って接客すれば、お客様にそれが通じるんだと体感できました」(廣瀬) 「『物』を売る前に『コト』を売り、『コト』を売る前に『人』を売る」という創業者の言葉を、身をもって納得できたのだ。
重要なのは売った後~楽器ごとに資格制度
2013年、廣瀬は2代目社長に就任。だが2期連続で減益となり、苦しい船出となる。そんなとき経済誌の記事が目に留まった。そこにはタイヤメーカーの「ミシュラン」が、販売後のメンテンナンスなどアフターフォローのサービスを始めたことが紹介されていた。 「我々もギターやピアノを販売して終わりでなくて、販売した後にお客様にどういう付加価値をつけられるかという点で、まだ十分ではなかったなと」(廣瀬) それまで、楽器のメンテナンスやイベントは大した売り上げにならないため、軽視しがちだったという。だが、楽器を長く続けてもらうには、売った後こそが重要だと気づいた。 そこで廣瀬は、ピアノやギターなど楽器ごとの資格制度を導入。それまでは店舗任せだったスタッフの育成を、会社組織として行えるように統一の基準をつくった。 「楽器店だったらここまでやってくれる、丁寧にやってくれる部分を、我々はスタッフにやっていただきたい」(島村楽器・山口真) この日、行われていたのはギターの上級資格の試験。正しい手順で演奏までの段取りができれば、楽器の不調に気づくようになるという。さらに、エレキギターの切れた配線をつなぐ、「ハンダ付け」といったメンテナンス技術も問われる。 上級試験に合格すれば、その楽器の「上級アドバイザー」の称号が与えられる。 厳正な試験で知識や技術を高めているから、客からも頼りにされる。 勝部隆之はギターの上級アドバイザーだ。客のひとりは「勝部さんにすすめられたギター、音が気に入っています。異動があっても、店が変わる前には必ず連絡をいただいて、勝部さんにお願いしにいく」と言う。 スタッフの育成が進んだことでギターの弦の交換サービスや、楽器に関する無料相談といったアフターフォローのサービスが充実してきている。廣瀬は創業者の精神を受け継ぎ、発展させているのだ。