JAXA/ISASのX線観測衛星「XRISM」が過去最高の精度で「はくちょう座X-3」を観測
大質量の恒星とブラックホールからなる連星と推定されている天体である「はくちょう座X-3」は観測のしやすさの一方、多くの謎に “包まれて” いるため、世界中のX線観測衛星が観測を行っています。今回、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)のX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」は、2024年3月下旬にはくちょう座X-3の観測を実施しました。 JAXAの天文衛星「XRISM」がファーストライト 銀河団と超新星残骸の観測データを公開(2024年1月6日) XRISMの観測データは、これまでで最も詳細にはくちょう座X-3を捉えています。400km/s以上にも達する激しいガスの運動や、ガスに含まれる鉄原子が高度にイオン化している様子など、これまで理論的な推定に留まっていた範囲に実測という答えを提供しています。X線観測衛星の通過儀礼とも言えるはくちょう座X-3の観測を通して、XRISMはその高性能さを示したと言えます。
JAXA/ISASの新しいX線観測衛星「XRISM」
新しい観測衛星が始動した際、初めてのミッションではよく知られた天体を観測します。これは、今までの観測データと比較するというベンチマークテストという意味と同時に、新しい観測衛星がいかに優れているのかを示す絶好な機会でもあるためです。 「XRISM」は、JAXAの研究機関であるISASが開発し、2023年9月に打ち上げられたX線観測衛星であり、2016年に打ち上げられたものの、姿勢制御系の不具合から短期間でミッションを終えた「ひとみ」の後継機です。XRISMは軟X線領域では最高の解像度を実現するための様々な工夫があります。 X線マイクロカロリメータ分光撮像器「Resolve」は、後述する観測で使用された観測機器です。X線というエネルギーを物質が受けると、エネルギーが温度に変換されます。この温度上昇幅を正確に測ることで、X線のエネルギーを逆算することができます。X線のエネルギー値をX線の波長に換算すれば、天体が持つ物質の組成や温度、あるいは運動速度などの情報を知ることができるため、X線のエネルギー=波長を精密に測れるほど、天体の環境を詳細に知ることができます。 この目的のため、Resolveは液体ヘリウムによって0.05K(-273.10℃)まで冷却され、温度上昇幅をより詳しく知ることができるようになっています。