JAXA/ISASのX線観測衛星「XRISM」が過去最高の精度で「はくちょう座X-3」を観測
謎に “包まれている” 強烈なX線源「はくちょう座X-3」
ところで、地球から約3万2000光年離れた位置に、「はくちょう座X-3」と呼ばれるX線源があります。地球で観測可能な、最も強いX線源の1つです。 はくちょう座X-3の正体は、「ウォルフ・ライエ星」と呼ばれる質量が大きく極めて活動的な恒星と、小さな伴星の組み合わせで構成された連星であると考えられています。伴星の正体ははっきりと分かっているわけではありませんが、数々の観測からブラックホールではないかと考えられています。 これまでの観測記録から、はくちょう座X-3はお互いの距離が近い連星であり、ブラックホールはウォルフ・ライエ星の周りを、わずか4.8時間という公転周期で公転していると考えられています。ウォルフ・ライエ星が放出した大量のガスの中を、ブラックホールは秒速数百kmで通過しつつ、重力で大量のガスを引き寄せます。狭い場所に押し込められたガスは、周りとの摩擦で強烈なX線を放出し、ガスに含まれる原子は電子をはぎ取られイオン化します。この状態となったガスを「光電離プラズマ」と呼びます。
光電離プラズマから放出されるX線の波長は、原子の種類と電子をいくつ失っているかによって決まります。一方で、ガスはX線のいくつかの波長を吸収します。つまり、X線を観測し、波長ごとの強さをグラフにすると、観測されたX線による山と、吸収されたために観測できなかったX線の谷が現れることになります。また、本来X線の波長は固定された値ですが、ガスが運動していればドップラー効果(※1)により波長が変化します。つまり波長のズレから、ガスの運動速度を逆算することができます。 ※1…波を放出する物体の運動により、波長が変化すること。代表的なのが音のドップラー効果であり、近づいてくる救急車のサイレンの音は高く、遠ざかる救急車のサイレンの音は低く聞こえる現象で実感することができます。 しかし、長年の観測にも関わらず、はくちょう座X-3は多くの謎に “包まれて” います。これははくちょう座X-3が、ウォルフ・ライエ星の激しい活動による大量のガスに包まれているためです。このガスが可視光線での観測を阻み、赤外線や電波でも見通しを悪くしています。