JAXA/ISASのX線観測衛星「XRISM」が過去最高の精度で「はくちょう座X-3」を観測
XRISMはX線観測衛星の通過儀礼を無事通過!
X線は、はくちょう座X-3の分厚いガスを破って中心部を詳細に観測する数少ない手段です。これまで数々のX線観測衛星がはくちょう座X-3を観測しており、今回観測と研究を行ったXRISMコラボレーションのメンバーの1人であるTimothy Kallman氏は、はくちょう座X-3の観測を「(X線観測衛星の)通過儀礼」だとたとえています。 XRISMは初期性能検証期間中の2024年3月24日から25日にかけて、合計18時間の観測時間ではくちょう座X-3を観測しました。XRISMがはくちょう座X-3を観測したのは、通過儀礼という意味合いの他に、XRISMが観測可能なX線の波長が、詳細に観測したい波長と一致しているためです。そして得られたX線の強度グラフ(スペクトル)は、従来のX線観測衛星とはまるで別モノのように見えるほど、個々の波長における強度の変化がはっきりしていました。 例えば25価の鉄イオン(Fe25+)に由来するX線は、400km/s以上の速度で運動していることを示しています。これは伴星から噴き出す乱流であり、伴星の公転移動によって生じた流れであると推定することができます。同時に、25価とは鉄原子がほぼ全ての電子を失っていることを意味するため、極めて高エネルギーな環境でのみ生じる光電離プラズマから放出されたことを裏付けています。これらの性質は、伴星がブラックホールであるという推定を裏付けます。 さらに別の価数の鉄イオン(Fe15+~Fe24+)に由来するX線を見ると、いくつかの波長が届いている一方で、明確に吸収されている波長もあります。これはウォルフ・ライエ星から放出されたガスによって吸収されたことを示しており、またこのガス自体も運動していることを示しています。このような細かいガスの構造や運動速度は、従来のX線観測衛星では解像度が低すぎるため、決して窺い知ることができません。 無事通過儀礼を終えたXRISMにより、はくちょう座X-3の詳細がこれまで以上にはっきりと見えてきました。ただし、これはまだデータ分析の初期段階であり、まだまだ多くの分析されていない情報があります。はくちょう座X-3の伴星が本当にブラックホールであるのかをはっきりさせるなど、XRISMによる謎の解明はまだまだ始まったばかりです。 Source XRISM Collaboration. “The XRISM/Resolve view of the Fe K region of Cyg X-3”.(arXiv) “特異なX線連星から吹き出すプラズマの風とブラックホールの運動を捉える”.(JAXA) Francis Reddy. “NASA, JAXA XRISM Mission Looks Deeply Into ‘Hidden’ Stellar System”.(NASA)
彩恵りり / sorae編集部