深刻化する水害、損害保険料は値上げへ――リスクある地域は大幅にアップするのか?#災害に備える
「憲法第22条で『居住・移転の自由』があるため、国民は基本的にどこにでも住む権利をもっています。そのため、災害リスクがあるからといって行政は開発を抑制したり、居住を制限したりすることはハードルがあるのです。行政は新規の開発に規制を設けられる程度で、完全に移転を禁止することはできません。また、人口減少社会を迎え、前述のように4者の思惑が合致しているなか、誰も得をしないことをするはずがありません。水害が激甚化する前は、災害リスクの高い地域の開発を制限するべきというような研究自体がある種タブー視されていました」
災害用の自賠責保険があってもいい
近年の集中豪雨とそれに伴う災害を見ると、リスクの高い地域で保険料率が上昇するのはやむを得ないのではという。 「いま火災保険の保険料はほとんど一律なので、危ない地域でも安いなら住みたいという人が少なくありません。万が一の際は保険でカバーすればいい、と考える人もいる。これではリスクが高い地域から人が減らない。やはり危ない地域に暮らす人には、応分の負担をお願いするべきです。アメリカでは開発と損害保険がセットになっていることがあります。日本も開発と損害保険を連動させるような議論をしてもいい。防災研究の立場から言えば、これだけ自然災害が多いのだから、自然災害の(強制加入の)自賠責保険があってもいいくらいです」
■熊本県人吉市・松岡隼人市長
2020年7月3日夜、熊本県南部の人吉市は猛烈な豪雨に襲われた。時間雨量30mmの雨が断続的に8時間降り、400mmという降水量で、中心部を流れる球磨川は翌日氾濫した。中心部のほとんどが泥水に浸かり、住宅被害3078棟、死者21人という甚大な被害が出た。松岡市長はあのときの様子について、いまでも言葉に詰まるという。 「言葉が出ない、というのが正直な気持ちです。どういう形であの状況を表せばいいかということすらわからない。茫然自失という言葉がありますが、水に浸かった市全体をただただ眺めることしかできなかった」