世紀の一戦は本当に引き分けだった? 内側から見たアントニオ猪木vsモハメド・アリ戦の深層
試合翌日に見たアントニオ猪木の足
猪木vsアリ戦は結果的に…高いアリーナの席はそこそこ売れたんですけど、全体的な入りは65%。ハッキリ言って、興行としては失敗でしたね。間際になってもチケットが売れなかったから、猪木社長と2人で結構、営業に行きましたよ。あれは試合の10日前だったかなあ。東京佐川急便の渡辺(正康)社長のところにチケットをキャッシュで200万円分売りに行きましたね。 あの頃は今と違って週休2日制じゃなかったし、しかもアメリカの生中継に合わせて土曜日の昼から試合開始というのが響きました。夜の開始であれば、あの料金設定でも間違いなく超満員になったと思います。昼の生中継の時間帯に、タクシーが街を走ってなかったことが話題になったぐらい注目度はあったわけですから。 試合の翌日の午前10時過ぎ、僕は「スポーツ新聞を全部買ってこい」と言われて、東横線の渋谷駅で買ってから猪木社長の家に行きました。社長は新聞をバーッと広げて、「随分、悪口書かれてんなあ。ひでえなあ」って。僕は「すみません。集計した時に悩んだんです」と言いましたよ。その次の社長の言葉が「何でお前が謝るんだ。大塚、これも神の導きだよ。引き分けで良かったんだよ」と。それで僕の気持ちはスーッと軽くなりましたし、もし数字を操作していたら社長は怒っていたでしょうね。 社長は新聞に一通り目を通した後、「大塚、足を見てくれよ」と。もう腫れ上がっていて、靴が履けない状態でしたよ。その日の午後、社長は出社したんですけど、さすがにサンダルでしたね、足を引きずりながら…。社長にとっては、「プロレスをメジャーに」というのが目標だったんですよ。だから、内容が良いとか悪いとかじゃなく、自分の映像がクローズドサーキットや衛星中継で世界に流れたわけですから、「俺は凄いことをしたんだ!」という気持ちの方が勝っていたと思います。 実際にあれだけ自分の足を痛めて、いかにあの試合が死闘だったのかは自分自身の身体が一番知っているわけですから、落ち込む気持ちよりも達成感の方があったと思いますよ。
大塚直樹(元新日本プロレス営業部長) ,Gスピリッツ編集部