「幻のがん」といわれる超早期の膵臓がんをつかまえる医師の苦悩
怖いがんの代表である「膵臓がん」の早期発見で大きな実績をあげる、JA尾道総合病院副院長の花田敬士氏が『命を守る「すい臓がん」の新常識』(日経BP)を刊行。膵臓がんの早期発見に地域ぐるみで取り組む「尾道方式」の立ち上げについて語ります。 【関連画像】花田敬士氏の著書『命を守る「すい臓がん」の新常識』 近年になって、膵臓がんで亡くなる人のニュースをよく耳にするようになりました。 最近では、政治家の石原慎太郎さん、女優の八千草薫さん、漫画家のさいとうたかをさん、歌手のかまやつひろしさん、ロックバンドのシーナ&ザ・ロケッツのギタリスト鮎川誠さんといった方々が挙げられます。 50代で膵臓がんに倒れた人もいます。2015年には歌舞伎役者の10代目板東三津五郎さんが59歳で、2021年には作家の山本文緒さんが58歳で、そして2024年には映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが56歳の若さで他界しています。 ●なぜ膵臓がんは怖いのか? かつて、がんは「不治の病」と呼ばれて恐れられてきましたが、医学の進歩により、適切な治療を受けることでがん患者の生存率は上がってきました。がんを克服した、いわゆる「がんサバイバー」が社会復帰したという話も今では珍しくありません。 ところが、こと膵臓がんに限ってみると、そうした幸運な例は多くはありません。 「見つかったときにはすでに手遅れ」 「膵臓がんが見つかって、あっという間に亡くなってしまった」 とよくいわれ、いまだに「不治の病」のイメージがつきまとう怖いがんだと考えられています。 膵臓がんの怖さはデータにも現れています。国立がん研究センターが発表した「がんの統計2023」によると、2019年に新たに膵臓がんと診断された人の数は4万3865人。2021年に膵臓がんで亡くなった人は3万8579人に達しました。 この死亡者数は、あらゆる部位のがんのなかで4番目に多く、男性では肺、胃、大腸に次いで第4位、女性では大腸、肺に次ぐ第3位となっています。 がんに対する治療効果を示す数字としてよく使われるのが「5年生存率」です。膵臓がんの怖さはこの5年生存率の低さにも現れています。2009年~2011年に何らかのがんと診断された人全体の5年生存率は64.1%でしたが、膵臓がんはわずか8.5%だったのです。 つまり、がん全体を見ると、診断された人の6割以上が5年後も生きているのですが、膵臓がんに限って言えば1割に満たないことを意味します。 膵臓がんが厄介なのは、がんが増殖して周囲に広がっていこうとする力が強く、周囲の臓器を巻き込んだり、転移しやすい点にあります。手術でがんを切除することが唯一の根治手段であるものの、早期発見が難しいために、診断時に手術ができる患者さんは3割程度にとどまります。たとえ手術ができたとしても、再発することが少なくありません。