腸内で作られる「長寿物質」ポリアミン…?!認知症予防研究から見えてきた「驚きのメカニズム」
記憶学習能力とオートファジーの関係性
ショウジョウバエもヒトやマウスと同様に高齢になると記憶学習能力が低下します。そこで、高齢ショウジョウバエにスペルミジンを与えたところ、嫌いなにおいを記憶する能力が向上しました(※参考文献4-17)。ニューロンの活性がどのように変化したのか解析すると、マウスと同様に、弱い刺激でも記憶学習が起こるようにニューロンが活性化されやすくなっていたのです。 一方、オートファジーの機能を調節するのに必要なタンパク質(Atg7)を作れないようにしたショウジョウバエでは、スペルミジンを与えても、ニューロンの活性状態は変化しませんでした。つまり、オートファジーが記憶学習能力の調節に関与している可能性が示されたのです。 最後に、スペルミジン摂取がヒトの認知機能にどのような影響を与えるのかについて、食物摂取頻度調査が行われました。具体的には、一定期間内の食品ごとの摂取頻度と1回当たりの摂取重量を調査しました。解析の結果、食事から摂取するスペルミジンの量と認知機能の低下との間には「負の相関」が見られたのです。つまり、ポリアミンの一つであるスペルミジンを摂取することで、認知機能の低下を抑制できる可能性があることが示唆されたのです(※参考文献4-18)(図4─1)。 しかし、注意しなければならないのは、スペルミジンがどのようにして認知機能を改善するのか、また1日の食事でどれくらいの量のスペルミジンをどれくらいの期間にわたって摂取すればよいのか(毎日摂取するのがよいのか、週に1度の摂取でよいのかなど)、といった因果関係については明らかになっていません。今後の研究に期待したいと思います。 ※参考文献 4-7 Madeo F et al., Science 359, eaan2788, 2018. 4-8 Tsukada M, Ohsumi Y, FEBS Letters 333, 169-174, 1993. 4-9 Mizushima N et al., Nature 395, 395-398, 1998. 4-10 Jänne J et al., Acta Physiologica Scandinavica 62, 352-358, 1964. 4-11 Pucciarelli S et al., Rejuvenation Research 15, 590-595, 2012. 4-12 Matsumoto M, Biological and Pharmaceutical Bulletin 43, 221-229, 2020. 4-13 Nakamura A et al., Nature Communications 12, 2105, 2021. 4-14 Eisenberg T et al., Nature Cell Biology 11, 1305-1314, 2009. 4-15 Eisenberg T et al., Nature Medicine 22, 1428-1438, 2016. 4-16 Matsumoto M et al., Nutrients 11, 1188, 2019. 4-17 Gupta VK et al., Nature Neuroscience 16, 1453-1460, 2013. 4-18 Schroeder S et al., Cell Reports 35, 108985, 2021. * * * 初回<なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる腹痛の正体>を読む
坪井 貴司(東京大学大学院総合文化研究科教授)