腸内で作られる「長寿物質」ポリアミン…?!認知症予防研究から見えてきた「驚きのメカニズム」
ポリアミンを補充したら記憶学習能力がアップした
では、加齢によって体内で産生されるポリアミンの量が低下するのは、仕方のないことなのでしょうか? じつは、体外からポリアミンを補充することができるのです。実際、先ほど紹介したように、さまざまな食品にポリアミンは含まれています。腸内マイクロバイオータもポリアミンを産生します(※参考文献4-12)。これら体外由来のポリアミンは、ヒトの場合、小腸や大腸から吸収され、血中へ移行します(※参考文献4-13)。 そこでポリアミンを培養液や餌などに添加して酵母やショウジョウバエ、線虫に与えたところ、寿命が延びたのです(※参考文献4-14)。また心疾患モデルマウスにポリアミンの一つ(スペルミジン)を経口投与したところ、心機能が改善されました(※参考文献4-15)。 小規模な臨床試験ですが、体格指数(BMI)が高め(つまり肥満気味)のヒトに、腸内のポリアミン濃度を高めることができる、ある種のビフィズス菌とアミノ酸の一つであるL-アルギニンの混合物を摂取してもらうと、動脈硬化に対して予防効果があることも報告されました(※参考文献4-16)。 またポリアミンが認知機能にも作用するか、研究が進められました。ヒトと同様に、マウスも高齢になると認知機能が低下します。そこで高齢マウスにポリアミンの一つであるスペルミジンを経口投与し、認知機能への影響が解析されました。 ヒトの脳にもマウスの脳にも、血中に含まれる病原体や有害物質の侵入を防ぐためのバリア機能として血液脳関門という構造があります。そのため、経口投与したスペルミジンが脳内に到達するかどうかはわかりませんでしたが、解析の結果、経口投与したスペルミジンが、マウスの脳に直接到達していることがわかりました。 そこでスペルミジンを経口投与し続けた高齢マウスに認知機能テストを行い、認知機能にどのような効果が見られるのか確かめました。その結果、空間学習能力や記憶力に改善が見られたのです。これは、脳の海馬と呼ばれる記憶学習を司る部位のニューロンが、ポリアミン(スペルミジン)の摂取により活性化されやすくなっており、その結果、弱い刺激でも効率的に記憶学習が起こるように変化していたのです。