3人以上で乗る機会が多いひとは、選ぶならレネゲード 中古車でも人気のジープ・レネゲードとお洒落なフィアット500Xは、どんなコンパクトカーだったのか?
中古車買うならどっちを選ぶ?
雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は、2016年11月号に掲載されたジープ・レネゲードとフィアット500Xのリポートを取り上げる。当時、マツダと組んでアバルト124ロードスターを産みだしたフィアットは、クライスラーとも手を組んで2つのキュートなSUVを誕生させた。レネゲードと500X。小川フミオがこの2台について、考えたリポートだ。 【写真14枚】ジープ・レネゲードの中古車はじわじわ人気が上がってる? フィアット500Xは今ならお買い得か? ◆自動車史に残るアイコン まさかこんな時代がくるとは思わなかった。第二次大戦中に開発がスタートした軍用車両にオリジンを持つジープと、イタリアの大衆の足だったフィアット・チンクエチェント。2台がいまや姉妹車である。 かたや、機能のかたまり。かりに1輪を失っても3輪で走行が可能なうえ、車載工具だけで修理可能かつ他車との部品の互換性を最重要視した設計を特徴とする。 こなた、省略の美学。コスト安の空冷2気筒エンジンにコンパクトな設計のサスペンションで、車内騒音を逃がすためにキャンバストップを採用。 共通しているのは、シンプルな美しさゆえ、自動車史に残るアイコンになったことだろうか。そこに注目したのがフィアット・クライスラーだ。まさかジープを作る会社とチンクエチェントを作る会社が合併するとは、誰ひとり夢にも思わなかったはず。ところが結果オーライだ。フィアット500Xとジープ・レネゲード、2台はどちらも魅力的だ。 共用するシャシーは前輪駆動をベースに4WDを組み合わせたもので、ともにFWDと4WDの設定がある。おもしろいのは、チンクエチェントは同車史上最大の大きさとなり、ジープは(戦時中ヘリコプターで運ぶために設計されたアルミニウム・ボディのマイティマイトなどを別としたら)史上最小となった。 もっとも魅力的な部分は、まさにこの項の主題となっているスタイリングだ。おむすび型が印象的な500Xに対して、豆腐型ともいえるレネゲード。全体のシルエットの力強い表現によって、同じシャシーとは思えない対照的なスタイリングが実現されている。僕にいわせると、ブランド・イメージを主眼においた、まことに上手な作りわけがなされた。 作りわけの巧みさでいうと、ミニとBMW2シリーズのSUVなどが思いつく。2車は似ても似つかないモデルで、これはこれで称賛すべき手法だ。でもアイコンとしての表現では、フィアットとジープのこの2モデルが群を抜いている。 レネゲードは500X同様イタリアで生産されていて、フィアットの販売網の力もあるだろう同地で売れている。ミラノではレネゲード密度が高く、ひと区画に必ず1台とまっていると思えるほど多くを眼にする。 僕はこのクルマが発表されたときから、ずっと気になっている1人だ。魅力は輪郭の明快さと、ディテール処理のたくみさにある。美は細部に宿るという文言の信奉者(僕のこと)としては、「X」をあらゆるところに使ったスタイルがまことに好ましい。「X」はクロスオーバーのXであり、エクストリームのXである。また軍用車両時代はジープのひとつのシンボルともいえた予備燃料を入れたジェリカンのXというプレス・ラインもモチーフになっているはずだ。 スノーボードのパイプや大回転などいわゆるエクストリーム・スポーツのスポンサーとしてもジープは知られ、テレビで観ているとジープのXのモチーフがあらゆるところに映し出される。自分たちのアイコン「X」を上手に使っているなあとマーケティング手法にも感心している。 ◆乗ったかんじはやはり近い 500Xのパワートレインは、1.4リッター4気筒エンジンのみで、FWDと4WDが選べる。FWDの「ポップ・スター」および「ポップ・スター・プラス」が140psの最高出力と23.5kgmの最大トルクであるのに対して、4WDの「クロス・プラス」は170psと25.5kgmと数値は少し高い。 ジープ・レネゲードは、500Xと数値的にも同一の1.4リッターエンジンを乗せたFWDの「ロンジチュード」および「リミテッド」と、175psと23.5kgmの2.4リッター4気筒エンジンに4WDシステムを組み合わせた「トレイルホーク」が用意されている。 写真では駆動方式の異なるモデルが紹介されているけれど、同じスペックで比較すると乗った感じはかなり近い。レネゲードのほうが少々ハネぎみかなと思わないでもないけれど、足まわりは両車とも硬めの設定と感じられる。エンジンは1.4リッターでも市街地では十分に使える力がある。6段自動MTのシフト・スケジュールもけっこう緻密で、うまくトルクを引き出してくれる。そのため市街地のストップ・アンド・ゴーでももたつくことはない。 ハンドリングは安定感を重視していて、スポーツカー的なシャープさはない。でも路面状況に左右されることは少ないようで、スタイリングの際だった実用車としては妥当な選択だったのではないかと思われる。 フィアット500Xはややクーペっぽい躍動的なスタイリングのため、ルーフ長が少々短めで後席ドアの開口部が比較的小さめだ。それに対してレネゲードは乗員の頭から上半身にかけての部分がほぼ四角に切り取られている。なので乗降性ははるかによい。3人以上で乗る機会が多いひとはレネゲードだろう。ここはキャラクターの違いが際立つ部分である。 ここはどちらがいいか評価を下す場ではないけれど、かりにスタイリングで選んでも、僕ならレネゲードだ。7本のスリットなどジープ的なモチーフを使いながら、類のないデザインになっているからだ。観ていると、なぜか知らないけれど心が浮き立ってくる。撮影のとき僕は実車を改めてじっくり観察し、その理由をつきとめようとしたけれど、自分じしん納得できる結論を得ることが難しかった。 かつてアイクことドワイト・アイゼンハウアー米大統領(任期1953年-61年)がジープに言及して「第二次大戦中もっとも重要だった軍の装備品」とおもしろいことを言ったそうだ。というのは輸送機でなるべく多く運べるように、格納庫に合わせて車寸や車重が設定されていたからだ。 ジープのスタイルに僕が惹かれるのは、そんな徹底した機能主義ゆえだろう。同時に丸型のヘッドランプの表情と、タイヤの存在感の大きさなど、原初的なクルマの魅力に溢れている。いっぽう500Xはもっとスタイリッシュで雰囲気重視だ。もちろんそれも悪くない。 姉妹車といっても、500Xとレネゲードはこんなに違う。その違いはクルマの多様な魅力の違いでもある。 文=小川フミオ 写真=山本佳吾 (ENGINE2016年11月号)
ENGINE編集部
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