欧州で今なぜか大流行の電制サスペンション 唯一の成功例は「ニッサンGT-R」
ここ最近の欧州車で大流行りのデバイスのひとつに電制サスペンションがある。フェラーリやポルシェと言った高価なスポーツカーから、ベンツ、BMW、アウディなどのプレミアム系の乗用車までその採用は広がっている。 【写真】サスペンションとリアウイングの密接な関係 実は電制サスペンションへの取り組みは日本の方がはるかに早く1980年代の後半にはすでに製品化され、1990年代の終わりころにはほぼ鎮静化していた。高コストの割に効果が低く廃れたと言って大きな間違いはないだろう。 それがなぜか今、欧州車で大流行している。確かにこの間にコンピュータの処理速度が飛躍的に上がったことで、リアルタイムにより速いレスポンスで制御することはできるようになった。しかし可変ダンパーという仕組みが持つ根本的な問題点は今も昔も変わっていない。「二兎を追うものは一兎を得ず」という言葉の通りなのだ。 電制サスペンションの多くは、ショックアブソーバー(ダンパー)の硬さを変える可変構造を備え、このタイプを指し示す時は「可変ダンパー」とも呼ばれる。可変ダンパーの目的は、ハードなドライビングの時に底突きしないだけのダイナミックレンジを確保しつつ、日常ドライブではソフトな乗り心地を両立することだ。少なくともメーカーの宣伝文句ではそういうことになっている。しかしそんなに上手くは行かないのだ。
なぜサスペンションが必要なのか
サスペンションの主要な部品は、アームとスプリングとショックアブソーバーだ。これらの働きでタイヤは上下に動けるようになっている。 あまりにも素朴な疑問に聞こえるだろうが、タイヤは何故上下に動かなければならないのだろうか? 乗り心地のため? それは理由の一つではあるが、一番目ではない。最も重要な理由は、タイヤを路面とコンタクトさせ、どんな状況であろうと常時路面をトレースさせるためだ。タイヤが路面をグリップできなければ、走ることも曲がることも止まることもできない。例え一瞬であってもタイヤが路面から離れれば、その間全ての操作を受け付けなくなってしまうのである。路面トレース性能はクルマの安全性という根幹の問題を左右する重大な性能だ。 シンプルな例として、タイヤがかまぼこ状の凸を乗り越える時のことを考えてみる。例によって単純化するので専門家の方々からはお叱りを受けると思うが、まず基礎的な概念をわかってもらうことを優先したい。 タイヤが突起に押し上げられて、サスペンションは縮む。そして凸の頂点に達して突起による押し上げ力が無くなっても、タイヤには上方向の慣性力が働いているのでまだ上昇しようとする。この慣性力を出来るだけ早く止めて、逆に路面に押しつけ返すことができないとタイヤは浮いてしまうことになる。