欧州で今なぜか大流行の電制サスペンション 唯一の成功例は「ニッサンGT-R」
サスペンションの主役はスプリング
押し返し、押し付ける力の主体はスプリングだ。クルマの側の条件としては、重量とサスペンションの移動距離(ストローク)などがある。路面側の条件としては、凹凸の大きさ、そこを通過する速度などがある。これらが決まれば最適なスプリングの硬さは概ね決められる。仮にサーキットの様な周回路だとすれば一番激しく突き上げられる場所で底突きしないようにスプリングの硬さを決めるわけだ。 公道を走る市販車なら最大負荷の値を想定する。そこが決まれば簡単で、一般論としてはスプリングは底突きしない範囲で柔らかい方がいい。コーナーリングの場合はこの突き上げをロールに置き換えれて考えればいい。一番遠心力が大きくなって外側のサスペンションが押し縮められるところがピークだ。ロールしながら不整に出会うこともあったりするので、最大負荷はそれも加味してを決められる。
なぜスプリングにダンパーが必要?
さて、では何故スプリングにダンパーを付加しないといけないのだろうか? スプリングは加振されやすく、一度力が入るとヨーヨーのように揺れが収まらなくなる。それを止めるためにはエネルギーを減衰させる仕組みが必要だ。この役目を果たすのがダンパーだ。 低反発枕を使ったことがあるだろうか? 頭を乗せるとゆっくりと沈んで行き、あるレベルで止まる。起き上がっても頭の形のくぼみが回復するまでに少し時間がかかる。普通の枕なら頭を乗せると沈むところまでいっぺんに沈み、起き上がるとすぐに元の形になる。低反発枕はスプリング+ダンパーの動きで、普通の枕はスプリングだけの動きに似ている。 違いは沈んだり回復したりがゆっくり起きるかどうかである。最終的な沈み込みの量はスプリングが決めるが、その沈みこみにかかる時間を決めるのがダンパーだ。もちろん伸びる側でも同じだ。 一般的なダンパーは油の入ったシリンダーとピストンで出来ている。この仕組みはよく注射器に例えられる。注射器のピストンを早く動かそうとしても針先の穴が小さければ、針穴を通る液体の抵抗で急に動かすことができない。しかし、針が細くても、急がなければ液を全部押しだすことは可能だ。速度によって変わるこの抵抗を使ってストローク速度を規制する仕組みがダンパーなのだ。 例えばクルマのボディを何らかの方法で固定して、タイヤをジャッキで徐々に押し上げていけば、ダンパー内部の油が「穴」を通って移動できる時間的ゆとりがあるため、ダンパーに邪魔されることなく底突きするまで押し込むことができる。走行中にこれに近い状況になるのは長い高速コーナーやループ式のインターチェンジなど高負荷長時間旋回をする場合だ。 力の加え方が速いとどうだろう? 注射器のピストンを一瞬で押し込もうとしても、前述の液体の抵抗に邪魔されて加圧されている間だけゆっくりと動き、加圧が終わったところで止まる。サスペンションなら、例えスプリングを底突きさせるような大きな力であっても、ダンパーが抵抗している間に加圧が終わって底突きしない。つまりダンパーは短時間の入力に対しては疑似的にサスペンションを硬くさせる効果があるのだ。