欧州で今なぜか大流行の電制サスペンション 唯一の成功例は「ニッサンGT-R」
「可変ダンパー」の仕組みと効果
可変ダンパーはこの仕組みを応用したものである。ダンパー内部に太さの異なる油の通り道を何種類か作っておき、電磁バルブで太さを切り替える。すると通路を細くするほどダンパーはタイヤの動きを規制する。サスペンションが硬くなるのだ。 だから、ハードドライビングでは細い通路を、日常ドライブでは太い通路を電磁バルブで切り替えて選択することで、サスペンションの硬さは切り替えられることになる。その選択はドライバーがスイッチ切り替えて行うプリセット方式と、様々な路面や運転状況をコンピューターが判断して切り替える自動式がある。 ただし、こうした切り替え式で乗り心地を確保するならば、スプリングが硬いと困る。ダンパーはスプリングに加勢して硬くすることはできても、スプリングの素性以上に柔らかくすることはできないからだ。サスペンションの硬さを変えられる仕組みにするためには、柔らかいスプリングを使い、高負荷域でダンパーを切り替えて硬くするしかない。 しかし、そうなると高負荷領域のセッティングは著しくダンパーに依存することになる。しかも前述の様にダンパーは高負荷長時間旋回をカバーすることは原理的にできないし、ダンパーの作用を強くすれば路面への追従性は悪くなるので、不得意なシチュエーションが出て来る。最初に書いた「どんな状況であろうと常時路面をトレースさせる」という理想的な作動が難しくなるのだ。当たり前のことだが、本来的に言えばスプリングとダンパーをバランス良く強化する方がいいに決まっている。
スプリングも可変に……ベンツの試み
だったらスプリングの硬さもダンパーと同じく可変にすれば良いではないか? しごくまっとうな考え方だ。少し前からこれに挑んでいるのがベンツである。SクラスやSLクラスでは、エアスプリングを使い内部の気圧を調整することでスプリングの硬さを変えたり、スチールスプリングの台座の高さを油圧で変えたりして実効的なスプリングの硬さを変えている。 しかし、ダンパーの切り替えは電磁バルブの切り替えという低負荷軽操作で実現できるが、スプリングの場合エアにしろスチールにしろ、車体の重さを支えている状態で硬さを変えるのは容易ではない。 硬さを変えるには、エアスプリングの場合、ゴム製の蛇腹に空気を押しこまなければならないし、スチールの場合は油圧でスプリングの台座の高さを変えなくてはならない。そんなことを1/10秒単位でおいそれと出来るわけがないので、当然応答遅れがでる。そしていつでも作動できるように予め気体や油を高圧にしておかなければならない。これによるパワーの損失は大きいし、構造的にも複雑で重くなる。また高圧系の部品は故障し易いし、修理に手間がかかる。 徐々に進歩しているとは言うものの、まだまだ普及が見込める可変スプリングシステムとは言えない。ということで「スプリングの硬さを変える」仕組みはまだまだ発展途上にある。結局のところ可変ダンパー以外には、サスペンションの硬さを可変にするこれといったソリューションがないのだ。