日本一のファッション企業になるために TOKYO BASE初任給40万円の狙い
セレクトショップ「ステュディオス(STUDIOUS)」を展開するTOKYO BASEが初任給を従来の30万円から40万円に引き上げへ──この数字は「ユニクロ(UNIQLO)」を手掛けるファーストリテイリングをも超え、国内では業界最高水準となるだけあって、業界内外で大きな注目集めた。その強気な姿勢の裏には、谷正人 代表取締役CEOが思い描く「日本一のファッション企業像」の構想があった。17期目を迎える“新生TOKYO BASE”が向かう道筋とは。 【画像】インタビューに答える谷CEO
日本一の給与にしなければ、日本一の会社にはなれない
―「初任給40万円」という数字にはかなり驚かされました。 我々は目標を改めて見直して、日本一の会社を目指すことにしました。さまざまな要素の中の一つとして日本一の給与にしないと、日本一の会社にはなれないという、シンプルな話です。 ■TOKYO BASE 初任給引き上げ&ベースアップの概要 交通費などの手当を含めた総額として、学歴を問わず、40万円をベースとして一律で支給。また、既存社員のベースアップも実施し、3月15日以降の全正社員の月給を40万円以上とする。なお、これまで40万円以上の給与を受け取っていた既存社員は、40万円をベースにさらに引き上げる。 <2024年度の新卒採用社員数> 50名 <初任給の内訳> ・基本給 20万3000円 ・固定残業代 17万2000円(月80時間) ※固定残業代は残業がない場合も支給し、超過する場合は別途支給 ・通勤手当 2万円 ・その他一律手当 5000円 ※インセンティブ、賞与(年2回)は別途支給。 ―大きな先行投資になると思いますが、どういった意図があるのでしょうか。 これは大きく3つの理由があります。 まずは、日本一を目指している新生TOKYO BASEの象徴にしたいという思いがあります。この話をすると、どうしてもお金だけが独り歩きしてしまいますが、お客様の感動をもたらすためには、社員が感動していかなきゃいけない。社員が感動できるようなファッション業界でありたい。そのために社会的地位を上げたいという思いがずっとありました。とはいえ、やはり給与が高くないと社会的地位はあげられない。新卒・中途を問わず、他業種から優良な人材をファッション業界に入れたいという思いもあります。 2つ目は、グローバル展開をしていく上で、給与もグローバル基準にする必要がありました。アメリカの給与所得は倍になっていますが、一方で日本の給与所得はほぼ昔と変わっていないですよね。そこに対してもシンプルにおかしいなとずっと思っていて。もちろん会社の経営としてはさまざまな努力をしていかなくてはなりませんが、グローバル基準に合わせて考えると、40万円は決して高くはないと考えています。 3つ目ですが、もともと給与所得を業界でぶっちぎりの1位にしたいと考えていましたが中々できず、ようやくビジネスモデルとしても実現できる体制が整ってきたというのも大きな理由の一つです。売り上げを伸ばしていく上で、 いわゆる地方の郊外型出店はやめて東名阪に絞りましたし、出店先も東京の中でも都心の商業施設を選ぶようにしています。売上のみを目的とした低価格帯事業も止めました。全社員一律40万円を賄える準備が整ったのも今このタイミングでした。 もちろん、社員のみんなには販売だけではなく、顧客様へのサービスのクオリティの向上、各個人の情報発信、商品企画、人材育成など様々な仕事に取り組んでもらいます。やはり現場が大事ですし、給料でしっかり対価としてお返ししたい。それを踏まえたら40万円は適正かなとは思っていますね。 ―従来の初任給30万円のままでも高水準だったのでは。 そうですね。ですが、ファーストリテイリングさんがグローバル人材を強化していく中で給与水準を上げてきているので、我々も着手しなくてはという危機感がありました。直近だと我々の中国事業は大幅な赤字で、グループ全体で見ると生産性が悪かったんですが、日本事業は好調を維持しているので、年間の生産性が上がれば一人当たりの給料が上がっても、経営的には何の問題もありません。 ―決断にも勇気が要ったと思います。 この決断に至るまでには正直3年かかりました。当然リスクも伴うことなので、本当にこれでいいのか迷いましたし、この3年の間にビジネスモデルを整理でき、人材投資の考え方もクリアになったので、ようやく決断ができました。 ―社員の皆さんも驚かれたのではないでしょうか。 新卒の社員は初任給が30万円だと思って入社の準備を進めていたので、社員総会で発表した時は会場がざわついていました(笑)。今年は50名ほど採用しましたが、来年は100名規模に増やしたいです。 ―40万円の内訳として、基本給のほかに含まれる「月80時間の残業代込み」に対してはさまざまな意見が聞こえてきました。 昔はひどかったですが、現在の弊社の平均の残業時間は20時間以内です。月ごとに違いはありますが、店舗で10時間から15時間くらい、本社職で多くて40時間くらいですから、80時間の残業を強いるような環境ではないことはまずお伝えしたいです。