<政権とメディアの攻防>データで読む安倍政権のテレビ報道対策 逢坂巌
テレビ対策の効果は?
図表3は、前回の衆院選の選挙関連情報のテレビ報道量(番組タイプ別・日別)の推移に、各「テレビ対策」のタイミングを重ねたものである(データはエム・データ社。東京キー局計。詳しくは、前回記事)。 これをみると、特にワイドショーの報道量に対して、自民党が11月20日に出した要望書が一定の役割を果たしたことが伺われる。解散宣言をおこなった11月18日やその翌日の19日には2時間以上も報じられていた選挙関連の話題が、要望書が渡された(20日)翌週になると、30分以下に落ち込むのである。しかも、その傾向は選挙日まで続いた。 一方、ニュースに関してはそれほど極端な変化はみられないが、過去の報道量と比べると少なかったのは前回の記事で報告した通りである。 まとめると、政権の「テレビ対策」はテレビの報道量に対して一定の効果を果たしたと推測される。
メディアと政治 今日における課題は?
以上、前回衆院選における安倍政権のテレビ対策とその効果を検証した。解散に際して、安倍首相が様々な過去の解散(中曽根康弘首相の「死んだふり解散」や佐藤栄作首相の「黒い霧解散」など)を勉強し参考にしたとジャーナリズムは指摘していたが、われわれの検証からは安倍政権はテレビの総選挙報道の特質についてもよく理解しているといえるだろう。 このことは、第1次政権での挫折の経験が、やはり相当なものであったこと、そして、そこから立ち上がる過程で、相当な学習がおこなわれたことを示唆している。安倍氏の「再チャレンジ」を、ジャーナリズムは甘く考えるべきではなかったといえよう。 しかし、このままアベノターンのみが続いていくことは、日本のデモクラシーにとって健全ではない。ジャーナリズムが政権や読者・視聴者に媚びるようになると、日本政治全体が歪むからだ。それは戦前のわれわれの経験が教えてくれている。 それを防ぐべくジャーナリズムは、当時の彼の痛みに正確に向かい合った上で、己の本分を見つめ直し、次なるターンを準備すべきである。一部に政権の寛容を求める声もあるが、それはおそらく甘い期待だろう。傷つけられた人間は決して忘れないのである。それが特に権力のプロフェッショナルであれば。 (※1)Apple to Open New Research Site in Japan,ウォールストリートジャーナル電子版、2014年12月9日 (※2)「アップルに匹敵の企業、日本に拠点準備…菅長官」読売ONLINE、2015年04月12日 ------------------- 逢坂巌(おうさか いわお) 立教大学兼任講師。専門は現代日本政治、政治コミュニケーション。著書に『日本政治とメディア』(中公新書、2014)。共著に『テレビ政治』(朝日新聞社)、『政治学』(東大出版会)など。