<政権とメディアの攻防>データで読む安倍政権のテレビ報道対策 逢坂巌
報道などによると、今回の衆院選で、安倍首相と自民党は、図表2のようなコミュニケーションをおこなった。それを改めて報道の流れと重ねてみると、政権は実に上手い「対策」を、タイミングよく実施していたといえる。
テレビ対策として何が行われたのか
安倍政権の「テレビ対策」として、まず指摘すべきは、解散から公示日までの日数を最短にしたことである。 解散から公示日までの「前期」は11日間で、これは過去10年間の5回の総選挙のなかで最も短い。その結果、報道時間は極端に短くなった。選挙期間は、国民が政治について考え、それを誰に任せるのかを判断する重要な時間である。一方、前述の参院選でもみられたように、近年は選挙期間中のマスメディアの報道によって選挙のムードが左右されると、政治家は苛立っていた。安倍政権は選挙期間を短くすることで、そのリスクを最小化する手を打ったといえる。しかし、その「対策」のために国民の考える時間が大幅に犠牲となった。 その短い選挙期間、もちろん先手を取ったのも安倍首相だ。解散4日前に記者会見をおこなって「今回の選挙はアベノミクス選挙である」と宣言。会見後は、NHK・日テレ・TBSの各テレビに単独出演して、選挙の命名合戦、議題設定争いを主導した。 また、その2日後には、番組の「公平中立、公正の確保」を求める「要望書」が自民党本部でテレビ各局に手交された。そのタイミングはテレビの選挙報道が最も盛り上がる解散日の前日であり、比較的自由に報道がなされてきた「前期」のテレビ報道全体への抑制を狙ったものとも解釈できよう。 なお、その6日後には、テレビ朝日の報道ステーションが前々日に報じたアベノミクスについての報道内容に対し「放送法4条4項の規定に照らし、同番組の編集及びスタジオの解説は十分な意を尽くしているとは言えない」と指摘する文書も出している。 公示後はテレビ報道を牽制する文書の発出などは明らかになっていないが、麻生太郎財務大臣が12月7日におこなった「(少子高齢化に関連して)子どもを産まない方が問題だ」との「失言」に対して、その翌日に釈明がなされるなど素早い対応がとられた。 対応といえば、12月9日におこなわれた安倍首相の発言もそれにあたるかもしれない。その日の夕方、埼玉5区(枝野幸男民主党幹事長(当時)の地元)での演説で、安倍首相はアップル本社がアジア初の研究所を日本の横浜に開設することを「発表」して世界的なニュースとした(※1)。 この話題は、翌10日のニュースでも大きく報じられたが、実はその日は特定秘密法案が施行される日だった。この法律には反対の世論も強く、その施行が大々的に取り上げられると政権のイメージが傷つく可能性もあった。しかし、結果的に特定秘密法案施行の話題は「アップルの研究所、横浜に!」に押しやられる形となった。 なお、この「世界的企業が日本に来る!」との話題は、今回の統一地方選においても前半戦の投票日前日に菅官房長官が街頭演説で「発表」し、メディアが取り上げている(※2)。 ここまで、政権の「テレビ対策」について、報道などで表面化したものをまとめた。では、その「効果」はいかほどだったか。