「ドッキドキ」の新体制でニュル24時間に挑むスバル/STI。2025年型は空力向上でコーナリングに好感
12月17日、SUBARUのモータースポーツ統括会社であるスバル・テクニカ・インターナショナル(STI)は静岡県の富士スピードウェイにて、2025年第53回ニュルブルクリンク24時間レースに参戦する『WRX S4』ベースのレーシングマシンのお披露目会とシェイクダウンを行った。 【写真】スーパーGTマシンのSUBARU BRZ R&D SPORTも、2025年ニュル24時間に挑む新型マシンとともに走行していた 2008年より継続的にニュル24時間へ挑戦しているスバル/STI。2024年大会限りで辰己英治総監督が総指揮から離れて以来、初めて迎える2025年大会は新体制での挑戦となる。 ■2025年型マシンに施された堅実な開発 新しいマシンやメンバーを率いるのは、辰巳元総監督とともにこれまでもニュル24時間を戦ってきた沢田拓也監督だ。ちょうど半年後の6月19~22日に24時間レースが開催される第53回大会を前に、まずはシェイクダウン当日を無事に迎えた心境を聞いた。 最初にまず、「いやもう、ドッキドキですよ。ただ、開発についてはしっかりとやりきって今日を迎えたつもりです」と、緊張を語る沢田監督。 新体制への不安が押し寄せるなかでシェイクダウンを迎えた様子だが、そこには辰巳前総監督が残していった期待の要素もあったという。 「自分がこれからチームのトップにはなりますが、辰巳と自分は得意な仕事も異なるので、彼がやっていたことをチームで分散して、私の強みの部分はそのままやらせていただく感じになっています」 「ただ、私も辰巳も話好きだったものですから、価値観や開発目標のすり合わせはつねにできてきたと思っています」 「そんななかでも、彼はやっぱりすごく大きな存在で。私にとっては不安な来年のレースになりますけど、しっかりとチームスタッフのみんなも含めて、(彼の意志は)伝わっているのではないかなとは思います」 さらに、バトンを受け継いでから進めた新型マシンの開発については、とくに信頼性を重視して進めたのだと語る。 「今年はレースで優勝できましたけど、霧での中断が多くて7時間半くらいしか走れてないんです。なので、ノントラブルで24時間を走り切れる証明ができてないんです」 「なので、今回はとくに信頼性だったり耐久性に重きを置いてきました。あと、来年は1カ月開催が遅い(6月開催)ので、熱対策もしましたし、性能も上げていかないといけないのでエンジンやエアロパーツの開発も含めて細かいところで性能向上に取り組んできました」 その開発部分について、技術監督の渋谷直樹氏は、「信頼性、耐久性をベースに、SP4Tクラスよりもさらに上のクラスを相手にどこまで食い込めるかを目標」として堅実な開発を行ってきたと語る。 お披露目会で発表された内容のなかでも、とくに吸気リストリクターの変更や、リヤウイングステーの形状変更、リヤの補剛パーツについてを説明していただいた。 まずはエンジンの吸気リストリクターについて、「このクルマのSP4Tクラスには、車両重量の区分によってエンジンのリストリクターの径が2種類選ぶことができるんです」と語る。 「車両重量が1220キロ以上のクラスと、1300キロ以上のクラスとで、リストリクターがそれぞれ39パイと41パイから選ぶことになります」 「ここで本音を言いますと、今回は事情があって車両重量を1220まで下げられなかったのです。なので、今回は1300キロクラスとしてリストリクターも大きいのを選ぶ、というかたちになりました」 「これは、実は出力を上げる効果はあまりなくて、逆に燃費を良くすることで競争力を高めていく傾向になります」 「ただ、トータルのタイムとしては速くなっています。実際にスポーツランドSUGOでマシンを走らせても、去年のベストタイムからはコンマ6秒は縮めていますよ」 さらに、ウイングステーと翼端板が変更されたリヤウイングについて続ける。 「そしてリヤウイングについては、今まではウイングの前方から吊っている形状だったんですが、『逆スワンネック』にして、中高速のコーナリングの安定性をさらに強めています」 「ただ、これによって空気抵抗がちょっと増えるので、翼端板を魚のひれのような形状に変更して、抵抗を減らす工夫をしています」 そして、リヤの運動性能についてはウイングの変更だけではなく、ダンパーのマウント上部を渡す補剛バーを設定しているのだという。 「今回、リヤダンパーの取り付け点の両端に補剛部品のバーを追加しまして、こちらはチームの方で今回新たに開発したものになります」 「これでさらにリヤの操縦安定性や、初期の応答を高めるような効果が出ています。ちなみにこちらは、ゆくゆくは市販化しようと進めているところです」 ■コーナリングが大幅改善。開発のカギは初志貫徹 こうした改良ポイントについて、実際にテスト時からドライブを重ねてきた開発ドライバーである久保凛太郎にそのフィーリングを聞いてみると、ステア傾向の変化としてその効果はしっかりと現れていると明かした。 「今年の進化としては、空力面での進化が結構大きくて、アンダーパネルだったりリヤウイングだったりとかが効いていて、高速コーナーはすごく走りやすくなっていました」 「あとはまだはっきりとは言えませんが、新技術みたいなのも入ってたりするので、その辺の効果もあって旋回性が上がってきています」 「どうしても、やっぱり四輪駆動ってちょっとアンダーステアなイメージがあるかと思いますが、このコースではずっと弱オーバーで走れるんですよ」 空力開発の効果によって、さらに回頭性が向上したという2025年型マシン。その開発時に主眼としていたことは、『ニュルだったらどうなるか』をつねに忘れないことなのだという。 「このクルマは、ニュルのグランプリコースから北コースも全部合わせてしっかりといいタイムで安定して走れることをコンセプトにしています。ニュルでは基本的に100パーセントの走りは一切目指すことがないので、ちょっと物足りないぐらいでマシンバランスをあわせます」 「とくに日本のサーキットは、路面のミュー(摩擦係数)も高いので、足は硬くしたくなるし車高も低くしたくなりますが、そういった調整もあまり行わないようにしています。しっかりとニュルをイメージしながら、『今はこうだけど、ニュルにいったらこうなるよね』という感じで、必ず1回は基準に戻るようにしていますね」 「なので、この富士でも、これまでテストを行ったコースでも、基本的にセットアップは変えないんです。それでも普通に走れるのでクルマの懐としてはかなり広いと思いますし、実際に乗りやすいですよ」 午前の走行を終えた時点でそう語っていた久保は、午後にも1時間のテスト走行に臨み、「もうバッチリでした」と笑顔で一言。こうしてシェイクダウンは、力強いフィードバックとともに締めくくられ、スバル/STIの2025年ニュルへの挑戦は着実なスタートを切った。 [オートスポーツweb 2024年12月17日]