40代、50代の気持ちがラクになる「幸福学」講座/大嫌いなパートナーが大好きになる「幸福学」の方法って?
最初は無理やりでもOK!他者への感謝を口にする
――その女性は、夫にどういうふうに感謝を伝えたのでしょうか? 夫が食後に食器を流しに持っていったとか、皿洗いをしたときに、「いつも洗ってくれて助かる。ありがとう」と、伝えたそうです。本心では、皿洗いしたくらいで家事をした気になってるんじゃないわよ、とは思っていても、まぁとにかくありがとうと伝えたそうです。そう言われると、旦那さんだって悪い気はしないですよね。すると、「今は忙しいから自分の分しか洗ってないけど、定年後は全部洗うようにするから」という言葉を返してくれたらしいんです。
――へぇ~!? 幸福学では、他者に感謝を伝えると幸せになれる、という知識を得たからこそ、行動できたのかもしれませんね。嫌だなぁと思っているパートナーに、普通はなかなか、素直にそうは言えないと思います(笑)。 まぁ、そうですよね。相手のことを「あぁ嫌だ!」と思っていると、相手も自分のことを「あぁ嫌だ!」と思うようになってしまいます。長く暮らしている夫婦にありがちなのは、「あなた全然、ゴミ出ししないじゃないの」「お前こそ、いつも洗濯物をすぐたたまないじゃないか」と、お互いがネガティブ攻撃になってしまうこと。これをポジティブなほうで言い合うように変えるだけで、幸せのループへと入っていけると思うんですよね。 ――なるほど。最初は無理やりでも、まずは自分から感謝を伝えたということに、大きなヒントがありそうですね。 最初は無理やりでいいんです。ちょっとだけ、感謝の気持ちをまず自分から出してみる。すると、「いや、こちらこそ感謝だよ」と相手の気持ちもやわらいで、感謝をどんどん積み重ねていけるんだと思います。このご夫婦は、その好例ではないでしょうか。たった1週間で、嫌だった夫とラブラブになれてうれしいとなったわけですから。
40代、50代からは「負けて勝つ」方法を知る
――幸せになれるのであれば、他者への感謝のバリエーションをもっと知りたいです。例えば、ほかにどんなことがありますか? いくらでも出てきますよ。まず、相手のささいな行動への感謝ですね。さっきの旦那さんの皿洗いのような。あと、相手の性格にも何かしらの感謝を探し出すことってできるじゃないですか。いつも真面目に働いて、頑張ってくれてありがとう、とか。もっと言えば、感謝は人間以外に対してもあります。だって太陽のおかげで僕たちは生きているし、植物のおかげで酸素だってあるわけです。ボールペンのおかげで紙に字が書けるし、パソコンのおかげでこうやって仕事もできる。そんなふうに外に対する感謝の視点を持つトレーニングをしていくと、嫌な夫にも、ここにいてくれるだけで感謝だなぁという気持ちが湧いてくるようになるんです。 ――年をとるほどに、自分から先に感謝するとか、相手によいことを言うのは、なんだか負けた気がするという判断基準に陥りがちなのかもしれませんね。物事を勝ち負けでとらえてしまうというか。 夫婦関係も、長年の間に妙なゲーム感覚にとらわれてしまっていますよね。先に褒める、譲歩するのは負け、みたいなね。でも「どうぞお先に」という感覚を持つことは、結果的に勝ちなんです。「いえいえ、あなたこそお先にどうぞ」と、相手の気持ちをやわらかいものに変換することができる。それは合気道や柔道と同じ理論です。相手が力でねじ伏せようとしたとき、その力を利用してすーっと引いてからぽん、と押すと勝つでしょう。 ――負けたようで実は勝っている。とても成熟した人間関係のコツですね。 若いうちは、言葉のチカラで相手に勝ちに行く!というパワーがあってもいい。でも40代、50代からは、いかに引くほうに回るかが大切なのではないでしょうか。そこにうまくシフトできず、勝ち負けにこだわり続けてしまうのは、自分も相手もきっと苦しくなってしまうはずです。 ――夫婦、パートナーシップも、譲り合うことで幸せになる。今日から感謝上手を目指して、40代、50代らしい幸福を味わっていきたいです!
【教えてくれたのは】 前野隆司さん 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼武蔵野大学ウェルビーイング学部長。1984年東京工業大学卒業、86年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼任。研究領域は、幸福学、イノベーションなど。