政界を揺るがした捜査のきっかけは、1人の「教授」の執念だった 自民党の派閥裏金事件 「政治とカネ」告発し続ける原点に特攻隊員の悲劇
ただ、検察はいずれも「略式起訴」で処理したため、公開の法廷で事件の全容が明らかにされることはなかった。政治資金を巡る問題の大半は「会計責任者を人身御供に差し出しただけ」で終わる。 薗浦健太郎元衆院議員の資金管理団体が政治資金パーティーの収入約4900万円を記載していなかった問題も、略式起訴で罰金刑に終わった。 上脇さんによると、刑事告発して略式も含めて「起訴」までもっていける“打率”は1割いかない程度。それでも「諦めたらそこで止まってしまう。そのときのベストを尽くす」。 ▽検察の捜査は「甘い」 今回の自民党派閥の裏金事件について、上脇さんは告発した案件を「氷山の一角」と捉えている。なぜなら、パーティー券を購入した個人や団体には報告義務がない上、「時効」で責任を問えない部分もあり、全て精査しきれないからだ。 検察の姿勢にも不満を感じている。 「甘い。数百万円の領収書を切っていて不記載はあり得ない。報告書の金額の数字の桁が違うのに、報告書の修正で済ませたり、不起訴処分になるのはおかしい」
上脇さんが過去に招かれた講演会では、参加者が一人100円ずつ出し合って謝礼を捻出しくれた。社会のために身銭を切る市民活動の懐事情を肌で感じているだけに、数百万円程度では動かない検察に、世間との乖離を感じざるを得ないという。 不満は政治資金規正法のぬるさに甘えた政治家たちにも向かう。 「金の流れの透明化と言う前に(違法行為の)チェックができないなら禁止すべきだ」。再発防止のためには①政治資金パーティーを禁止する②企業や個人の支出報告全てを義務化する③政党交付金も廃止する―ことが必要という。 ▽「しんどい」けど続ける、原点に特攻隊員だった叔父 今年66歳になる上脇さんに、安息の日々が訪れる気配はしばらくなさそうだ。学生数百人の期末試験の採点、記者会見、さらなる刑事告発…この2年は正月返上で告発状を書き続けた。目の病気を抱えながらも、収支報告書とにらめっこを続けている。「正直、しんどい」と記者にぼやく。