政界を揺るがした捜査のきっかけは、1人の「教授」の執念だった 自民党の派閥裏金事件 「政治とカネ」告発し続ける原点に特攻隊員の悲劇
パーティー券を買った団体や個人の過去の支出記載と、派閥の収入明細とを一つ一つ突き合わせていく。その結果、収支報告書への不記載が主要5派閥で計4千万円超(2022年11月時点)に上った。 ただ、民間人である上脇さんにこれを、「裏金」と断定できる根拠はない。そこで東京地検に「ぜひ捜査してほしい」という趣旨の文言を添え、政治資金規正法違反(虚偽記入)容疑で刑事告発した。この問題に関する告発は2022年11月~2023年1月で6件。 その後も関連する告発を続けた結果、東京地検特捜部がついに動いた。今年1月、池田佳隆衆院議員と政策秘書を逮捕したのを皮切りに、議員やその秘書、派閥関係者の計10人が起訴された。(1月26日時点) ▽焼きそば屋で哲学議論の学生時代 上脇さんは1958年に鹿児島県で生まれた。高校卒業後、浪人生活を経て関西大学へ入学。「酒と麻雀に明け暮れた」という。法学部なのに、のめり込んだのは哲学。哲学の講義が終わると、教授のもとへ通い「聞くのも恥ずかしいような素朴な疑問をぶつけた」。熱意が伝わったのだろうか、大学近くの焼きそば屋で教授と議論を交わすようになった。「ぜいたくな時間だった」
学部では法哲学を専攻。専門書で法解釈を巡る複数の学説に触れると、どれが正しいか悩んだ。周囲には司法試験に向け勉強中の同輩がいる。意見を求めると「暗記すればいい」と返された。神戸大学大学院に進み、憲法を学んだ。 1994年、現在の北九州市立大学に講師で採用された。この年は、ちょうど政治改革関連法案が成立した年。翌年に政党交付金制度が始まった。 政党交付金は、各政党に対し、所属する国会議員数や得票数などに応じて交付金を与える制度。原資は国民の税金だ。政党の条件は「5人以上の国会議員が所属する」か「直近の国政選挙での得票率が全体の2%以上」。1月1日時点で政党の要件を満たしていれば交付される。 この制度は当時まだ新しく、研究成果や蓄積はない。上脇さんは興味を持ち、政党や関係者にアンケート調査などをしていた。そこへ転機が訪れる。新進党(当時)が解散し、6つの政党に分裂した。1997年末のことだ。これが最初の刑事告発につながる。