政界を揺るがした捜査のきっかけは、1人の「教授」の執念だった 自民党の派閥裏金事件 「政治とカネ」告発し続ける原点に特攻隊員の悲劇
上脇さんは、分裂した6党にもアンケートを送った。ところが、回答を見ていると結党日がなぜか空欄になっている。各党に電話で確認したところ、結党日は1998年に入った後と判明する。上脇さんは驚いた。98年1月1日の時点で政党になっていないにもかかわらず、政党交付金を受け取っているためだ。 刑事告発しようと思い立った。ただ、告発文を書いたことはない。有志の弁護士が以前に書いた告発文を見よう見まねで学んで書き上げた。「哲学者こそ行動することが大事。理論が現実的なものか確かめる必要がある」 2000年2月、仲間の法学者とともに、政党助成法違反の疑いで6党の党首を東京地検に刑事告発。この時は結局、不起訴処分となるものの、社会的には大きな注目を集めた。 報道を目にした阪口徳雄弁護士から連絡があった。阪口弁護士は株主代表訴訟などに取り組む社会派の弁護士として知られていた。この出会いをきっかけに、「政治とカネ」を巡る上脇さんの活動は加速する。
「阪口弁護士の人脈なしには私の今の運動はなかった」 告発を続ける上脇さんの支えとなったがオンブズマンだ。2002年に「政治資金オンブズマン」の共同代表に就いたが、ここで痛感したのが、政治資金収支報告書の「入手の難しさ」だった。 国会議員は、総務省や都道府県の選挙管理委員会に毎年の収支報告書を提出している。現在はインターネット上でほぼ全て公表されているが、以前は「紙」の状態が大半。さらに、収支報告書の保存年限は3年と規定され、時機を逸すると入手できなくなることもあった。 解決策として2016年、「政治資金センター」を設立し、国会議員の収支報告書を収集、ネットで公表する事業を始めた。これまでを振り返り「オンブズマンの人たちがいてこそ」と感謝する。 ▽“打率は1割”、でも諦めたら… 仲間の支えを受け、刑事告発は続いた。 例えば、西松建設の違法献金事件で、当時経済産業相だった二階俊博氏の元政策秘書が企業献金を個人献金に偽装した問題、そして安倍晋三元首相の元公設第1秘書が「桜を見る会」前日の夕食会の費用を補填した問題も上脇さんが手がけている。