ロシアが核使用の敷居大幅に引き下げ、プーチン氏に幅広い決定権 ウクライナ戦況に合わせた異例の見直し、世論は支持、核威嚇依存体質強まる
ロシアが9月、核兵器使用の基準を定めた「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)改定案を公表した。核保有国の支援を受けた非核保有国から侵略を受けた場合も「共同攻撃」を受けたとして、核で反撃する可能性を示すなど、使用の敷居を大きく引き下げた。その狙いや背景などを探った。(共同通信=太田清) 【写真】ウクライナが核攻撃されれば米国はどう報復するか 通常兵器で直接攻撃も、ロシアの演習で高まる緊張
▽無人機攻撃も対象 改定案は9月25日、ロシアの安全保障問題に関する最高意思決定機関、安全保障会議でプーチン大統領が発表。プーチン氏は、無人機(ドローン)や巡航ミサイルがロシア領内に大規模に発射されるとの確度の高い情報を入手した場合でも、核攻撃に踏み切る可能性があると表明。ウクライナによる無人機反撃強化などを念頭に置いた発言とみられる。 また、同盟国として隣国ベラルーシの名前を挙げ、同国が通常兵器で侵略された場合も核兵器で反撃できると規定した。 ペスコフ大統領報道官は9月29日、プーチン氏の発表を受け国営テレビで「(最終的な)改定案が準備されており、今後正式に決定される」と語った。 ロシア独立紙「ノーバヤ・ガゼータ」によると、安全保障会議には大統領のほか主要閣僚らが出席したが、なぜか前国防相のショイグ同会議書記、ゲラシモフ軍参謀総長という、核使用問題に最も深く関わったであろう2人は欠席した。
▽77%支持 こうした動きをロシア国民はどう見ているのか。 ロシアのニュースサイト「ノーボスチ・メール」は10月10、11の両日、サイト利用者7千人を対象に改定案に対する世論調査を実施。程度の違いはあれ改定案の動きを知っていると答えた回答者中、63%が完全に賛成とし、反対と言うより賛成とした14%と合わせて計77%が改定案を肯定的にとらえた。 改定案により核戦争の脅威がどうなるかについては回答が分かれ、脅威が高まると答えたのは36%、低くなるとしたのは46%だった。 ▽タイミング プーチン大統領の改定案公表の時期は、米ホワイトハウスでのバイデン大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の首脳会談直前だった。会談では、米国製長射程兵器によるロシア領内攻撃を米国が認めるかどうかが焦点だったが、結局、会談でバイデン氏はこれを認めなかった。 米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドル・ガブエフ所長は10月3日の論文で、公表のタイミングは偶然ではなく、前述の首脳会談を前に、ロシアの警告を深刻に受け止めよとのシグナルを米国に送ることが目的だったと指摘。