若手は殴られるのも仕事だ…白昼堂々、駅のロータリーで“指導”を受けた20代サラリーマン。先輩社員からの「理不尽な暴力」が“日常化”した信じられない理由【専門家が解説】
先輩社員たちの「暴力による労務管理」
チームリーダーを支えるAさんたちも、過酷な長時間労働に晒されていた。残業は毎月100時間程度あり、180時間を超える月もあった。厚労省が定める過労死ラインの約2倍だ。 Aさんたちは、プロジェクトの資料作成から、外回り業務に伴う様々な雑用までを行う。外回りが終わるやいなや事務所に戻って、その日の成果を資料化する。徹夜も頻繁だった。チームリーダーが翌日出勤して、すぐ仕事に取り掛かれるように準備しておくためだ。 寝不足のまま、翌朝、外回りの業務に出発することも多かったが、移動中の車内ですら寝ることは許されない。取引先の相手をする必要があるからだ。ミスやうたた寝をするなというほうが無理な話だったが、見つかった瞬間に先輩たちから殴られた。 そして、クライアントや大手元請けの働き方改革のあおりを受けた労働強化のせいで、ミスはさらに増加した。暴力やハラスメントは以前からあったが、この時期は特に過酷だったという。 チームリーダーたちは、若手たちがこうした長時間の労働に「耐えられる」ように、暴力を振るっていたともいえる。睡眠不足でボロボロでも、暴力への恐怖で思考停止に陥らせ、命令された業務を忠実にこなさせるのだ。もちろん離職者は続出していたが、残ったAさんたちは、長時間労働にも理不尽な業務にも文句を言わない従順な社員に仕立て上げられていった。 そして、つもりにつもった不満は、自分が仕事のリーダーになったとき、後輩の若手社員たちに向けて爆発する。不条理な業務と過労死レベルの残業を受け入れられる社員だけが残り、「暴力の連鎖」は、連綿と「継承」されていたのだ。 確かに、このシステムは会社が意図的に作ったものではないだろう。だが、「暴力の連鎖」は、この企業において実に「効果的」な「労務管理」の方法として、「役立って」いたことは間違いない。 坂倉昇平 ハラスメント対策専門家