若手は殴られるのも仕事だ…白昼堂々、駅のロータリーで“指導”を受けた20代サラリーマン。先輩社員からの「理不尽な暴力」が“日常化”した信じられない理由【専門家が解説】
職場での暴力が“容認”されていたワケ
ここまで読んで、疑問を持たれた方がいるかもしれない。若手社員たちは、暴力を会社に相談しなかったのだろうか? こうした暴力が社内で問題になることはなかったのだろうか? 実は、この先輩たちの上司は、暴力を事実上容認していた。若手が先輩に殴られているところを見ても、「見なかったことにする」と言い放ち、それどころか「若手は殴られるのも仕事の一つだ。俺らのときは自ら進んで、先輩が殴りやすいように頰を差し出したもんだ。気配りが足りてないんじゃないのか」と居直る始末だった。 冒頭の先輩も、「〇〇(上司の名前)さんは、自分が俺たちを殴ってたんだから、俺らに文句なんて言えるはずがない」と自己正当化していた。 のちにAさんが行った団体交渉の場でも、この上司は「暴力があることは知っていたが、ある程度は仕方ないかなと思っていた」と発言している。 長時間労働の「ガス抜き」としての暴力 一体なぜ、このような暴力が「解決すべきもの」ではなく、「黙認するもの」とされていたのか。この会社の社風や社員が、たまたま「異常」だったのだろうか? 実はその背後には、業界全体に蔓延る長時間労働の問題があった。しかも、この時期は、「働き方改革」のあおりを受けて特に忙しくなっていた。クライアントや元請けの大手企業の社員たちが、「長時間労働対策」によって土日にきっちり休みを取るようになり、それまで下請企業の社員たちと一緒に開いていた休日の会議が禁止された影響だ。 休日前に会議を終わらせるため、締め切りまでの期日が大幅に短くなり、下請企業の社員たちの労働の密度は一気に濃くなった。一日当たりの労働時間がさらに長くなったうえ、休日出勤もなくなるわけではなかった。平日に手が回らない仕事を休日にこなすためだ。 加えて、働き方改革に先立って、クライアントや元請け企業のコスト削減が深刻化していた。プロジェクトの単価が毎年削減され、そのしわ寄せをダイレクトに受ける下請けは、人件費をカットせざるを得なくなっていた。これに働き方改革による納期短縮が追い討ちをかけ、下請企業は残業代も払えないまま、社員一人当たりの業務量を増やすことで凌ぐしかなかったのだ。 こうした状況の下、チームリーダーである先輩たちは多忙を極めていた。上司が取引先から膨大な仕事を取ってくるため、チームリーダーたちはそれをさばくしかなく、どんな業務をどれだけやるかの自由がない。その代わり、後輩に暴力を行使する「自由」を与えられていた。殴る・蹴るなどの行為は、彼らの「ガス抜き」として会社から容認されていたのだ。