2070年には日本の「人口の1割」が「移民」になる? 貧困国からやみくもに移民を受け入れてはいけない理由とは(レビュー)
移民は世界的な問題だ。世界全体の移民数は、最新の統計では2億8千万人に達する。日本は公式には移民政策を採用していない。しかしそのおかげで“事実上の移民”として論じられることが多い在留外国人は340万人を超える。2070年には日本の人口の1割が「移民」になるという推計がある。 当然、移民はさまざまな社会的、経済的な影響を移住国に与えるだろう。移民について従来の経済学の本は、だいたいは労働問題に焦点を置くものが大半だった。移民が雇用を奪うのかどうか、というのは古典的な論争点だ。本書のユニークな点は、文化の移植をテーマにしたことにある。移民は自分たちの文化を持ち込む。例えば、イタリアのスパゲッティは、移民が米国に持ち込んだ食文化だ。だがいまや米国では定番の食事になっている。ただし米国風にアレンジされてだ。文化の移植は、移民の文化と居住先の文化がおたがいに影響し合うことで、多様な姿をとる。食事だけではない。本書では、宗教、信頼感といった他者への態度、政治的な考えなどを題材に、文化移植の姿をとらえている。 また1500年以降の世界経済を文化移植の観点から論じていることも斬新だ。政治的に安定し、また経済面で先進的な国からの移民の方が、新たな居住国に大きな恩恵をもたらす。この公式は、もちろん現代でも有効だ。日本を含む先進七か国が世界経済発展の主導役である。これらの国から他国への移民は、文化やイノベーションの進展をもたらすだろう。 ただし著者は、日本など先進七か国が、国境を開放して、貧困国から大量の移民を受け入れることには警鐘を鳴らしている。このケースでは、文化の多様性がかえって居住国の制度やガバナンスを毀損して、社会の分断をもたらすからだ。それは先進国だけではなく、世界経済にも悪影響をもたらす。実証的に論じる著者の姿勢からは学ぶところが多い。 [レビュアー]田中秀臣(上武大学教授) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社