2025年の「AI」はこうなる さらに進化するAI世界の展望 長谷佳明
◇AIがAIを研究する 24年は、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授をはじめ、AI研究者がノーベル賞を受賞した。詳細は「『AI研究』にノーベル物理学賞と化学賞-その理論と技術を詳細解説」(24年10月27日掲載)に記したが、ヒントン教授はノーベル賞受賞の記念講演で、一部国家によるAI悪用への懸念をはじめ、AIを活用する人間側の倫理の重要性を指摘した。活用する側にも課題も多いAIであるが、進化そのものは、25年もなおも続くと思われる。AIの進化を考えるうえでキーワードとなるのが、「AIサイエンティスト」である。 AIサイエンティストとは、その名の通り“AIを研究するAI研究者”である。日本のスタートアップSakana AIが、24年8月に関連する論文を公開するなど、徐々に実現性が高まっている。元オープンAIの研究員であったレオポルド・アッシェンブレナー氏も24年6月、「SITUATIONAL AWARENESS The Decade Ahead(状況認識 次の10年)」と題したエッセイの中で、人間を超える知能を持つ超知能(Super General Intelligence、SGI)に関し、AIサイエンティストの存在を挙げている。 アッシェンブレナー氏が、“Intelligence Explosion(知能爆発)”の引き金として考えたのが、“Automated Alec Radford?(自動化されたアレック・ラドフォードのようなAI研究者?)”である。ここで登場するアレック・ラドフォード氏とは、オープンAIに所属する研究者で、かつてGPT-1、GPT-2の論文のファースト・オーサー(第一著者)であり、事実上の中心的な研究者となった人物である。 上記は比喩的な表現だが、まさに、オープンAIの研究を支える屋台骨である人物に相当する能力を持つAIの誕生が契機となり、AIは加速度的に進化するとアッシェンブレナー氏は考えている。もし、超知能が誕生するなら、それは人間の研究者の直接の手によるものではなく、研究に特化した「AI研究者」の誕生があることは想像に難くない。25年は、AIによるAI研究の自動化がどこまで進むかも、今後のAIの進化の速度を考えるうえで重要な要素となる。
AIの進化の道程は、そもそも現在の大規模言語モデルをはじめとした巨大モデルの中で何がおきているのか十分な解明も進んでおらず、不確実性が高い。一方で、その可能性については、生成AIブームの中で、私たちは十分に実感し、企業での業務活用など、社会実装を始めている。25年も驚くような新技術や事例が登場すると思われるが、技術に呑まれることなく、時に冷静な判断と決断が次の時代を作っていくことになるだろう。 (長谷佳明氏・野村総合研究所エキスパートストラテジスト)