袴田さん再審無罪が確定、事件の刑事責任はもはや追及不可 立ちはだかる「公訴時効」、本当に必要なのか?
1966年に発生した静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さんに言い渡された再審無罪判決について、静岡地検は10月9日、上訴権を放棄し、無罪判決が確定した。 控訴断念を明らかにした検事総長談話によると、「本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます」と不満をみせるも、「袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し(た)」とし、控訴を断念したとしている。 この結果、死刑事件では戦後5件目となる再審無罪が確定したわけだが、事件の真相は依然として不明のままだ。 何より、事件の「公訴時効」はすでに成立している。 現行の刑事訴訟法は、人を死亡させた罪であって法定刑として死刑が定められている犯罪について「公訴時効なし」としているが、事件当時の同法は「公訴時効15年」としていたため、事件の刑事責任を問うことはもはや不可能だ。 刑事裁判で、被害者遺族などの無念をはらす、また真実の解明を果たすことは叶わない。
●一部の重大犯罪を除き、「公訴時効」は今も存在する
静岡県一家4人殺害事件の解明に立ち塞がった「公訴時効」だが、殺人罪などの「人を死亡させた罪であって法定刑として死刑が定められている犯罪」以外については、今も1~30年の範囲で定められている。 たとえば、傷害罪の公訴時効は「10年」、窃盗罪は「7年」、わいせつ物頒布等罪は「3年」となっている。 最長の公訴時効「30年」に該当するのは、「人を死亡させた罪であって法定刑として無期懲役・禁錮が定められている犯罪(死刑に当たるものを除く)」で、具体的には、不同意わいせつ致死傷罪や不同意性交等致死傷罪などが挙げられる。 一定の期間が経過したから犯人が無罪放免になることに納得できないのは、何も殺人罪などの凶悪事件ばかりではないように思えるが、なぜ公訴時効は存在するのだろうか。全面的に廃止することにはどんなデメリットが考えられるのだろうか。刑事事件に詳しい神尾尊礼弁護士に解説してもらった。