「フィリピンに帰ればいい」生活保護を求める日本育ちの女性が受けた “違法な”対応…背景にある「制度の誤解」とは【行政書士解説】
「貧困」が深刻な社会問題としてクローズアップされるようになって久しい。経済格差が拡大し、雇用をはじめ、社会生活のさまざまな局面で「自己責任」が強く求められるようになってきている中、誰もが、ある日突然、貧困状態に陥る可能性があるといっても過言ではない。そんな中、最大かつ最後の「命綱」として機能しているのが「生活保護」の制度である。 【統計】外国人による刑法犯の検挙件数・検挙人員の推移(1989年~2023年) しかし、生活保護については本来受給すべき人が受給できていない実態も見受けられる。また、「ナマポ」と揶揄されたり、現実にはごくわずかな「悪質な」不正受給がことさら強調されたりするなど、誤解や偏見も根強い。本連載では、これまで全国で1万件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏に、生活保護に関する正確な知識を、実例も交えながら解説してもらう。 今回は、日本生まれ・日本育ちのフィリピン人女性が窓口担当者から受けた違法な対応と、最終的に生活保護を受けられるようになるまでの一部始終を通じ、「外国人に対する生活保護・社会保障」の問題を浮き彫りにする。(7回/全8回) ※この記事は三木ひとみ氏の著書『わたし生活保護を受けられますか』2024年改訂版(ペンコム)から一部抜粋し、構成しています。
在留資格のある外国人。役所で「母国に帰れ」と言われ
フィリピン国籍の女性パウさん(仮名・40代)が、お子さんを連れて私の事務所へ相談に来られました。 「生活に困っているなら、フィリピンに帰ればいい」 そう役所で言われて、困り果てていました。 在留資格があり、人生のほとんどを日本で暮らし、結婚をし、子どもも生まれ、働いて納税もしてきた女性。 ほかの行政書士や弁護士に相談をしても、「元配偶者の家に居候しているなら、生活保護申請しても却下される。引っ越してから申請しないと、生活保護は受けられない」 そう言われて行きついたのが私の事務所でした。 上記の行政書士や弁護士らの回答は明らかな誤りです。実際には、他人宅に住んでいても、真に困窮して経済援助も受けられない状態であれば、生活保護は受けられます。 なお、パウさんのように、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住者、定住者等の在留資格を有している外国人は、生活保護制度の運用上、「生活保護法に準じた取扱い」を受けられます(厚生労働省「生活保護実施要領等」参照)。
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