袴田さん再審無罪が確定、事件の刑事責任はもはや追及不可 立ちはだかる「公訴時効」、本当に必要なのか?
●現行の公訴時効制度と問題点・改善案
そこで現行の制度です。 2010年刑訴法改正後、人が亡くなっていて死刑もあり得るもの(殺人罪など)の公訴時効は撤廃され、その他の罪も軒並み時効期間が長くなっています。 重大事件は遺族の苦しみが一生続く以上、時間が経過したからといって処罰しないというのは社会的な理解を得られにくいでしょう。 ただ、被告人の防御に十分配慮されているかどうかは、袴田さんの事件を指摘するまでもなく甚だ疑問です。たとえば、以下(1)~(4)のような方策は考えられるでしょう。 (1)DNA型情報の採取・鑑定等は、捜査機関と独立した機関が(も)行う 事件から長期間経って犯人が逮捕されることを想像すると、DNA型情報の一致によることが多そうだと思います。 逆に言えば、他の証拠(例えばアリバイを証言してくれる人、防犯カメラなど)はなくなる一方で、DNA型情報だけしか残っていないことも考えられるわけですから、DNA型情報が正確に採取され鑑定されている必要があります。 現在、科捜研や科警研が鑑定などを行っていますが、捜査機関から独立した組織とは言い難いです。将来の冤罪事件を防ぐためにも、中立的な法科学センターを作るべきと考えます。 一例ですが、海外では米テキサス州のヒューストン市で独立の法科学センターが設立されています。 (2)DNA型鑑定の際には全量消費を禁止する 刑事裁判をやっていて比較的よくみるのが「鑑定資料は全量消費した」との記載です。これは事後的な検証を不可能にします。少なくとも有罪立証の根幹になり得る鑑定資料は、再検証に耐えられるよう保管する制度を作るべきと考えます。 なお、犯人が分からなくても、「こういうDNA型情報を持つ者が犯人だ」という形で起訴することを認め、公訴時効を停止させる制度もあり得ます。アメリカでは性的虐待などに適用されています(「ジョン・ドゥ起訴」などと呼ばれることもあります)。 この制度を日本に導入するには、上記のようにDNA型情報の信用性の問題をクリアしないと難しいと思います。また、DNA型が採取されたかどうかで結論が大きく変わることにもなり、被害者間での不平等も生じ得ます。 (3)アリバイ等の被告人に有利な証拠を広く利用できるようにする 袴田さんの裁判で焦点になったのは、検察側にある証拠が開示されるかどうかでした。再審の規定には、証拠開示の定めはありません。裁判所の訴訟指揮によって開示がされ、無罪に繋がったといわれます。 事件発生から時間が経っていれば、ただでさえ被告人が使える証拠が限られてしまうのですから、被告人が(特に自己に有利な証拠に)アクセスできる制度もまた重要です。 なお、再審にかかる規定が不十分であることについては、超党派の議連が立ち上がっていますので、政治的な解決がされるかもしれません。 (4)取調べの全過程を可視化する DNA型情報がない事件では、長期間にわたって(任意の)取調べを重ね、自白を強要されることもあり得ます。 日本では、取調べの録音録画がされている事件は数パーセントに過ぎないとされており、特に任意の取調べにおいては録音録画されていない事件ばかりです。 ドラマ「ミステリと言う勿れ」でも主人公が連日任意の取調べを受けるシーンがありましたが、捜査官が胸ぐらを掴んでも記録には残らないわけです。 取調べを可視化することは、後述の捜査機関の信頼にも繋がるのではないかと考えます。