薬物依存で虐待サバイバーの女性32歳が語る“薬なしでは生きられなかった”ワケ「依存的に使う人の背景にあるもの」
「木津川ダルク」の実名報道に思うこと
死んでしまいたいと思うほどの状態から抜け出した風間氏。2021年からはNPO法人 ASKの社会対策部に所属している。元当事者として昨今の薬物報道に強い失望を感じることがあるという。 「実名報道は必要だったのでしょうか。薬物を依存的に使う人の背景には、逆境的小児期体験や、胸の痛み、孤立感などがあります。たしかに、違法薬物を使うことは犯罪です。だけど、使った人たちは、その法という一線を超えてまで使ったほうがいいと思うほど苦しい状態だった、ともいえます。 ダルクに入所している人たちの多くは、仲間と一緒に薬物を使わない人生を歩もうと立ち上がった人たちです。私はダルクに入所したことはありませんが、ダルクのおかげで立ち直れたと話す仲間たちに、多様な立ち直りの選択肢と希望を見せてもらえて、いつも勇気づけられています。だから、彼らがまるで極悪非道な犯罪者かのように報道されるのは私自身とても辛く、苦しいです。そして私もまた薬物依存症の当事者なので、そうした報道と痛みに突き動かされ、薬物を使用したい気持ちが顔を出します」
何をしてもいいと考える差別意識がある
「捕まったり、死にかけたからといって、薬物をスパッとやめられる人のほうがレアです。で、やめようと思っても、やめる準備や、一緒に頑張れる仲間との関係ができていない時期に再使用することは、回復過程ではよくあることなんです」と風間氏は話す。 「私はたまたま逮捕されずにここまで生きてこられました。逮捕されてしまえば、家を借りることや、就職することすら困難になります。その上に実名報道でデジタルタトゥーを残すことは、生きなおしの権利を奪うこと。それでどうやって、薬物をやめて生きていけと言うのでしょうか」 その背景には、「薬物使用者に対しては何をしてもいいと考える差別意識があるのではないか」と風間氏は指摘する。そして、「薬物を使わなくても幸せに生きられるような社会の役に立てるように」と現在は予防教育に尽力し、学校や福祉施設、医療機関などで講演活動を行っている。 カフェインもアルコールも処方薬も合法だが、依存性のある薬物だ。そう考えると、誰もが依存症と無関係ではない。「依存症患者は怖い」ではなく、その背景にあるものに目を向けるべきではないか。 <取材・文/田口ゆう> 【風間暁(かざま・あかつき)】 特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)社会対策部。ASK認定依存症予防教育アドバイザー。保護司。自らの経験をもとに、依存症と逆境的小児期体験の予防啓発と、依存症者や問題行動のある子ども・若者に対する差別と偏見を是正する講演や政策提言などを行なっている。2020年度「こころのバリアフリー賞」を個人受賞した。分担執筆に『「助けて」が言えない 子ども編』(松本俊彦編著、日本評論社、2023)など 【田口ゆう】 ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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